薬と剣

□薬と剣 十六話
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頭の中がグチャグチャなまま、僕は走った。
何も考えられない。
ただ涙だけがポロポロと止まらなかった。

走って走って、どこをどう走ったのか。

僕は薄暗い所に来ていた。
足が止まった。

でも、涙は止まらなかった。

どうして僕の記憶はなくなってしまったんだろう。
リュウト様と恋人同士だったなんて、本当に?

あんな・・・・・・

さっきのことを思い出す。
思い出すと悲しくて・・・・・・
ただ泣き続けた。


「どうして泣いてるの?」

急に話しかけられる。
驚いて肩がピクリと揺れた。

声のした方を振り返るとドアがあった。
ドアの真ん中に小さな上下に開く扉が付いていて、そこからだれかが覗いている。

「お兄ちゃん、どうして泣いてるの?」

再度尋ねられた。

・・・・・・子ども?
よく見ると小さな男の子が小さな扉から目と鼻だけを覗かせていた。

「どこか痛いの?」

心配そうに見てくる。

「どこも、痛くないよ」

答えると目と鼻が奥へ引っ込んだ。
かわりに小さな手が出てくる。

「うそ。痛そうだよ。
 僕がいたくなくなるおまじないしたげる。
 痛いとこ、出して?」

小さな手がヒラヒラとおいでおいでをした。

「本当に痛くないよ。
 ・・・・・・ありがとう」

声をかけ、気になったことを質問してみる。

「どうしてドアから出てこないの?」

手が引っ込み、また目と鼻が出てきた。

「出られないの」

少し悲しそうになった声が答える。

「出られない?」

「鍵がかかってるの。
 開かないの」


僕は近付いてドアを押したり引いたりしてみた。
ガチャガチャと音は鳴るものの、開かない。

「閉じ込められてるの」

「誰に?」

ビックリして聞き返す。

「リュウトっていう人」

サーッと血の気が引いた。
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