薬と剣

□薬と剣 十九話
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昼からは宮廷薬師長のユーマさんと、その助手のソーマさんが部屋を訪れてくれた。

二人とも僕が記憶のない時に知り合ったみたいで、申し訳なく頭を何度も下げた。

「謝らないでください」

とユーマさん。

「薬の知識は残っているんですよね」

「はい・・・」

「それは何よりです。
 あなたの知識はこの国の宝といっても過言ではない」

「そんな・・・・・」

ユーマさんの言葉にビックリしてしまう。
他にもユーマさんは僕の記憶のない間、戦へ一緒に行った話を教えてくれた。

そうなんだ・・・・・。
僕、リュウト様と一緒に戦に行っていたのか・・・・。
お役にたてたのかな・・・・。
解毒剤を作った話が終わるとそれまでずっと黙っていたソーマさんがガバッと床に頭をついた。

「ごめんっ!」

「え!?な、何ですか?!」

「セツが記憶を無くしたのは僕のせいだ!」

「え?」

ソーマさんは夜襲のことを話した。

「セツが僕をかばってくれたから・・・・・
 さらわれて、そこで記憶を無くしたんだと思う。
 ごめん」

「謝らないでください」

僕は床に膝をついてソーマさんの手を取った。
顔を上げるソーマさん。

「その時の僕はそうしたかったからそうしたんだと思います・・・・
 ソーマさんのせいじゃないです。
 ・・・・・・ソーマさんが無事でよかった」

ニコリと微笑んで言うとソーマさんは真っ赤になった。

「し、至近距離・・・・・」

「え?」

「だぁ!な、なんでもないっ!
 なんでもないよっ!」

急に慌て出したソーマさんに僕は首を傾げた。
ユーマさんがコホンと咳払いをする。

「それよりも今日伺ったのは少しお願いがありまして」

「何でしょう?」

「町で胃腸風邪が流行る兆しがあるのです。
 今年のものは例年のものより症状が重そうで、子どもや老人がかかると・・・・・と懸念しています。
 胃腸風邪の薬自体はあるのですが・・・・」

「薬がきついので体の負担が大きくかかってしまいますね」

「その通り。
 城にもそういった薬は一応あるのですが、私にはあれが最善とは思えません。
 それで是非あなたに新たな処方箋を作って欲しいのです」

僕で役に立てることならやりたい。
でも・・・・・
ヨグノの方を見る。

「行ってきて、お兄ちゃん」

ヨグノは笑った。

「大丈夫。
 僕ちゃんと留守番してるよ」

「ヨグノ・・・・・」

クロエ様の件で、僕が元気がないのを気遣ってくれてるんだろう。

・・・・・優しい子。


「じゃあ、行ってくるね」

ギュッと抱きしめた。
ヨグノも抱き返して来る。

「絶対にこの部屋から出ちゃダメだよ」

「うん。
 出ないから、今日も一緒に寝ていい?」

「いいよ、約束」

ユーマさんとソーマさんと共に部屋を出る。

部屋の前にいる兵の方と侍女の方にくれぐれもヨグノのことをよろしく頼みます、と頭を下げてから、鍛錬棟という所にある調合室へ向かった。
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