薬と剣

□薬と剣 二十三話
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街道を塞ぐ兵からの連絡ですぐその地に向かった。
検問を見て進路を変えた馬車がある、と。
馬車が消えた茂みの奥。
セツの悲鳴に血がざわついた。

本当は男をぶった斬るはずだった。
ドス黒い感情のままに。

しかし・・・・・

「リュウさんっ!!」

その声に我に返る。
この男を捕らえて他の仲間を吐かせないと根本的な解決にはならない。
気が付けば俺は刀の柄で男を殴っていた。

・・・・・セツのおかげだ。

後から追いついたエミリオ兵に男を連行させ、ヨグノを運ばせる。

俺は自分の前にセツを包むようにして馬に乗っていた。
ポツリ、ポツリと話をする中で、セツがなくなった記憶の中の自分を疑っていたことを知る。
あぁ、あの夜様子がおかしかったのはそのせいだったんだな、と気付いた。

「お前の不安に気付けなくてすまなかった」

言うととても慌てて俺のせいではない、自分が悪いと言い募った。

何でも自分のせいにしてしまうセツを今度こそ大切に、守りたい。
もう悲しい涙を流すことがないように。
馬上でキュッと抱きしめる。

・・・・・ん?

「お前、熱がないか?」

セツの額に手をあてた。

「すみません。
 リュウさんと居たら安心してしまって・・・・
 気が緩んじゃったみたいです」

「バカ、早く言え」

マントにくるまるセツの上に俺の上着も羽織らせる。

「わ、駄目です。
 リュウさんまで熱が出ちゃいますよ」

「俺は鍛えてるから大丈夫だ。
 いいから着てろ」

「・・・・・ありがとうございます」

「ほら、もっと俺にくっついてもたれてろ。
 支えといてやるから、何なら寝てろ」

「・・・・はい」

セツはクタリとその身を俺に預けた。
その目が、既に眠そうだ。

牢に入れられ、疑われ、自らも己を疑った日々。
それがどれだけセツを疲れさせたことだろう。

胸が痛んだ。
セツが寝やすいよう、しっかりと抱えなおす。

「・・・・・リュウさん」

「ん?」

今にも眠りに落ちそうなセツが俺を呼んだ。

「幸せ・・・・です」

言った途端スゥスゥと夢の国へ旅立ったセツ。

これくらいで。
こんなことで。
幸せと言ってくれるセツがどうしようもなく愛おしい。


「本当に幸せになるのはこれからだからな」

聞こえてはいないだろうが、いい。
これは俺の、自分のための言葉だ。

セツを、この愛しい人を幸せにする。
そう誓って頬にキスを落とした。
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