他SS

□黒月L
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『忘れられない』

 しゃらんと手錠の金属音を立てて、月はソファーに深く腰掛けた。頭部を少し伸展させて、全身の体重を預ける。
 左隣に腰掛けていたLが、猫のように体を丸め、月の大腿部に頭を乗せた。さも居心地よさそうに、頬を寄せる。
 「重たいよ、竜崎。」
 「疲れてるんです。」
 「仮眠取ろうか。」
 「このままでいいです。」
 「僕が良くない。」
 「月くんの膝は、実にいいですね。高さといい、筋肉の付き具合といい、膝枕に最適です。」
 「褒められてる気がしない。」
 月はそう言いながら、Lの髪を優しく梳いた。少しひんやりとした、艶のある彼の髪が、月はとても好きだった。
 「駄目。足しびれてきた。」
 「眠ってしまったので、もう起きられません。」
 その後しばしば、捜査の合間に、月の膝に頭を預けて、Lは寝息を立てた。

 「ふう。」
 重く疲れた頭を振りながら、月はリビングのソファーに腰掛けた。左隣には、もう、誰も、いない。手錠で繋がれた日々は、もう、遠い昔のことのようだ。
 「膝枕、よくしたよなあ。」
 月は、傍らのクッションを膝に乗せてみた。
 「違う。軽すぎる。」
 今度は、雑誌の束を試してみる。
 「こんなにぺなぺなじゃない。」
 キッチンに炊飯器を取りに行った。形は近いけど。
 「こんなに硬いわけないか。」
 そのとき、ミサがリビングに入ってきた。
 「ライト、炊飯器抱えて、何してるの?」
 「・・・何にも。」

 『月くんの膝は、実にいいですね。』
 りゅうざき。
 りゅうざき。
 忘れられない。
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