他SS

□黒月L
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『つめたい手』

竜崎がうちに泊まることになった。
何の話からこうなったのか、よく分からない。ただ、「絶対だめだ」と意固地になるのもキラっぽい感じがしたし、だめな理由を捏造するのも面倒だった。
竜崎の布団は、母が用意してくれ、僕のベッドの下に引いてある。
湯上りの竜崎は、少し頬を上気させている。いつもはね放題の髪は、しっとりと濡れていた。
「髪、ちゃんと乾かさないと、風邪引くよ。」
「めんどくさいんで。」
竜崎は、うろんな態度で頭を振った。ああ、もう。
僕はベッドに座ったまま、曖昧に揺れる細い体を引き寄せて、タオルでがしがしと髪を拭いた。シャンプーの香りが、ふわりと漂った、今日だけ、僕と同じ香り。
「電気、消していい?」
「はい。おやすみなさい。」
「おやすみ、竜崎。」
ぱちんと電気を消して、目を瞑る。
薄明かりの中で、竜崎を伺った。眠れない。竜崎は、何度目かの寝返りを打っている。
「・・・眠れないの?」
「ええ、枕が変わると、ちょっと・・・」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・夜神くん。」
「何。」
「手を繋いでもいいですか。」
「何で。」
「何となく。」
「・・・いいよ。」
僕はもそもそと掛け布団の下から右手を出して、竜崎の左手と繋いだ。ひどく冷たい。
「竜崎の手は、冷たいね。」
「夜神くんの手は、暖かいですね。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
僕らはそのまま眠りに付いた。
次の日の朝目覚めると、既に竜崎の姿はなかった。布団はきちんと畳まれていた。
布団の外に出しっぱなしにしていた右手は、酷く冷えていた。僕はその手を口元に持っていき、竜崎のことを少し考えた。

おわり。
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