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□2008年火村有栖誕
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息が詰まるほど、苦しかった。









ひどい言葉









恋人になったばかりの私たちは、今までと変わらず下らない話をしては酒を飲んで、愚痴をこぼしていた。昨日今日で親友が恋人に変われるはずはない。


ただ一つ変わったのは、無かった時間を無理やり割いてでも会う時間を作るようになったあたり、お互いに多少なりとも意識はしているのだと思う。


「ふぁぁ…ねむたい」


「明日休みなんだろ?寝ろよ」


土日に無理やり仕事を押し込むのはやめた。それに最近は会社の方も少しばかりは時間がある。まぁ、なかったとしても無理にでも時間なんて作って見せるけど。


並べられた布団にもそもそと潜り込む。火村はまだ眠るつもりがないらしく、テレビの音に耳を傾けている。


さびしいな、と思った。


くい、と手をのばして火村のズボンの裾に手を伸ばした、その瞬間、火村が大きく飛びのいた。


「触るな!」


ビクッと飛び上がる。火村がしまった、という顔をして、すまん、と謝って来た。手のやり場に困ったままの私は固まってしまった。


さわ、るな?


「アリス?すまん、寝ろ」


「…火村?」


「いいから!」


「火村!」


私の叫びに火村が止まる。でも、あんな言葉を言われて再び火村に触れる勇気はない私は宙に舞ったままの自分の手を布団の上に置いた。


「…火村、はっきり言うてくれ。嫌なんか?せやったら、帰る」


「アリス、」


震える自分の手を握り締める。触るな、なんて、心をえぐるようなひどいことば。火村が私の手首をつかんだ。驚いて見上げる。


「アリス、待て」


「さわ、るな、って言いながら触るんやないわ!」


「馬鹿!待てって!」


どうして私がバカ呼ばわりされなければならないのだ!むくれた私を見て火村が大きく溜息を吐く。


「お前なぁ…」


「傷ついた!」


「だろうな…俺もだ」


ぎゅ、と火村が私の手首を再び握り締める。火村の目を見ればどこか苦しそうに歪んでいた。


「お前分かってないよ」


「なにを、」


「俺、アリスが好きなんだって言っただろうが」


「俺かて…」


「分かってない」


火村の手が私の頬に伸びてくる。びく、と体を震わせれば火村は少し切なそうな顔をした。


「触りたいんだよ」


「は?矛盾しとるやんか」


「アリスが思ってるよりも、俺はアリスに触りたいんだ」


火村の目に捉えられて体が動かない。ぼうけた頭でやっと理解した。そして顔が朱に染まっていくのがわかる。そうだ、私たちは、恋人、なのだ。


「あ、えと…」


「わかったか馬鹿」


「…馬鹿は、きみや」


火村の胸倉をつかんで、引き寄せる。反動で抱きしめると火村が驚き出くぐもった声をだした。


「ちょ、アリス!」


「君かて全然分かってない!お、俺がいつ、触られたくないなんて言ったんや!」


ぎゅうと抱きしめると観念したように火村が肩を上下させた。そして強く抱きしめ返してくる。急に緊張した私の耳元で火村が笑った。


「もう逃げられねぇからな」


「上等」


頬に滑るように落ちた火村のくちづけに緊張してカチコチになった私を、火村は離すものか、とでも言うように強く抱きしめた。


お願いだから、もうあんなひどい言葉は言わないで。すがるようにそうつぶやけば、火村が当たり前だろう、と笑った。










END.










―――――――――――――――
こうやって完成していく…

恋人なりたて社会人

20080418#

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