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□2008年火村有栖誕
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ちがう、近すぎて、遠いんだ。
手なんて届かない
風に靡く黒髪、伏せ目がちの大きな瞳、影を作る長いまつげ、照れたように微笑む姿に誰もが一瞬は気を取られる、と言う。
容姿だけではなく頭もよくて、気立てもいい。性格もよくて高飛車にならないその姿は男女ともに憧れの的で、彼女の存在はアイドル的存在となった、らしい。
「いーやーあれは無理だろう」
その彼女が食堂で友人たちと戯れている姿をアリスがぼーっと見ていた。それを茶化すように金本が笑ってそう言った。
「え?何が?」
「あんな美人狙いなわけ、アリス」
「はぁ?何言うてんねや」
アレ、と指をさす金本の指先をアリスの瞳が追った。そして彼女にいきつくとアリスの顔が一瞬曇った。そして取り繕ったような顔をしてあほか!と罵声を浴びせる。
「ちゃうわ!」
「…の割にはじいっくり見てたような気がするけどなぁ」
「ちゃうって!」
あはは、と茶化す金本を見やって、アリスが見つめていたという彼女を見た。確かに綺麗な顔立ちだと思う。でも。俺は再びアリスを見て頬をゆるめる。
どんなに綺麗に咲く百合の花よりも、傍らできらきら輝いてるタンポポの方が俺は…。そんな事を思って頭を振った。アリスと視線が合う。
ふっと眼を逸らしたアリスに違和感を覚えながらも、しなければならない用事を思い出して立ち上がる。中村が俺に倣うように立ち上がった。
「図書館だろ?俺も行くわ」
二人並んで図書館へと向かいながら、中村がつぶやいた。俺の脳裏には彼女をみつめていたアリスの横顔ばかりがフラッシュバックしている。
「…あの美人さんさ」
「お前までその話題か、中村」
「火村は気にならないのか?アリスが見てたって言うのに」
こいつも大概悪趣味である。人の一喜一憂を横目で見てるなんて。俺が眉を寄せると中村は怒るなよ、と困った顔をした。
「噂知らないのか、お前」
「噂?」
「あの美人さんがお前に気があるって噂」
はぁ?そう言うと中村はやっぱり知らないよな、お前は。と笑った。それがアリスが見ていたことと何の関係があるんだ?そう問えば中村は大きく溜息を吐く。
「かなわないな、あんな美人が相手じゃ余計に手なんて届かないな、そう思ったんじゃないのか、アリスは」
「それはちょっと都合がよすぎるだろ」
俺に。笑ってそう答える俺に中村はまた困った顔をした。そんな都合のいい事考えられるほど、俺は自信家ではない。
「おれこそ、手が届かないんだよ」
こんなに近くにあるのに、手を伸ばすのが怖いなんて。高嶺のはな?そんなものはいらない。ただ、ただ、俺の横であの天真爛漫なタンポポが咲いていてくれたら、と思う。
「…自分の鉢に咲いてる花に気づかないってのも可哀相だな」
「なんか言ったか中村」
振り返った中村の顔は、あきれを通り越して楽しそうだった。知ってるよ、そのタンポポが俺の鉢に咲いてることくらい、な。
END.
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意味不明^p^
学生なふたりと友人たち
20080418#
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