華空小説=モノクロ

□キエルイノチ
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5階の一番西側の個室型の病室。


そこには抗生物質の薬品によって茶色がかった髪の青年が静かに息をし眠っていた。


時々、風に揺れるカーテンから差し込む木漏れ日が青白い顔を照らす。


僕は今から2時間くらい前から青年の眠るベッドの横で何もすることなくいる。


正直思えばたかが人間一人に対して馬鹿げていると思う。


世界にはもっとたくさんの人がいると言うのに。


マリアに初めて会った時の事を思い出す。



『人一人を見てはいけない』



そう言われていたのに。



「…おはよ」



どうやら目を覚ました様だ。



「あぁ…。けどもう行くよ」



その時、僕はどんな顔をしていただろうか。


ちゃんと笑って云えただろうか。


青年はゆっくりと起き上がろうとしていたが、僕はそれを止めた。



「まだ、寝ていた方がいい」



肩まで掛布団をかけてあげてから、病室から出ようとした。



「またね、ナル」



ドアが閉まる直後に言われた。


振り向いても、もうドアは閉まっていた。


病室のプレートには“有沢 冷雨(レイウ)”と青年の名前が書かれている。


2ヶ月前の名前とは変わっているが冷雨は冷雨だ。


自分の事なんて棚に上げて馬鹿にみたいに他人に優しい。


昔からそうだった。


そんなだから、僕は何時の間にか好きになっていたんだ。


変わらないと思っていたのに。




 
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