Long stories
□臨界の華々 1.花瞼が開くとき5
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「名前ないって…まさか、」
そんな…ありえない、でしょ?
「俺、名前も何も覚えてねぇんだ。いつからここにいるのかも親がいたのかも分かんねぇ…」
しょんぼりと、落ち込んだ表情を見せる
潤みだす澄んだ瞳
どこか、目を離しておけない 手放したくない そんな感じ
…あぁ、そうか 私は1人納得する
離れ離れになった、あの弟の姿が重なるからだ
「…よし、あんたが忘れた事思い出すまで一緒にいる」
「えっ…ほんとっ!?」
私がそう断言した途端、表情から瞳まで、全てが明るくなった
どうせ、今の現状じゃ 私の戻りたい場所には戻れない
だったら、戻れるようになるまで一緒にいてもいなくても 変わらないんじゃないだろうか?
「よし、まずは街かどこか 広い場所に行こう」
小型ナイフをジャケットのポケットに入れ、私は意気込んだ