志裏偉事

□沈んで浮いて
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そうやって大立ち回りを繰り出したところで、結果は見えていた通りだった。

ぼろ雑巾みたいに地面に這いつくばって、あちこち体が痛んで、噛み締めた口の中も血の味がする。


強くならなくちゃいけないんだ。

強くならなくちゃいけねェのに、方法が分からない。

道が分からない。

まだまだ俺は子供だ、どうすりゃ良いんだか分かりゃしねー。

強くならなくちゃ、護りたいもんも護れねェ。

そんな事を考えた後、意識はゆったりと落ちていった。



目を覚ませば見知らぬ天井、見知らぬじじい、見知らぬガキ、見知らぬ…。



「…ゴリラ?」


「違うんですけどォォォォ!!」



この騒がしい目を覚ました場所は若干ゴリラ似の男の祖父が運営する道場らしく、それなりにデカい。

ただ見るからに門下生はガキ一人といったようだが。


何故俺を拾ったのか訳が分からなくて、聞けば面白そうだったからとの一点張り。

そんな訳がない。

何か別の理由があるはずだ。


そう疑いながら道場の外で、その男の練習風景を眺めていた。

だが見ても考えてもどうしたってその男はただのお人好しのようで、おまけに練習内容も至極単純な物。

丸太を降るだけの内容で強くなんてなれるのか。


男が俺の前にドンッと丸太を置く。



「どうだ? お前も」


「……」


「まだ無理か、その怪我じゃ」



一体なんだと言うんだ、この男は。



「俺の見たところ、お前には天賦の才がある。 どこで習った訳でもねェのに、体裁きといい、機転といい、並々ならねェ」



その言葉に、胸に少し引っ掛かる。

習いはした、習いはしたが、全然なんだ。
どうも父のように強くなれない。

それでもまだ多少は他の者より強くあれているのか、俺は。

あの頃より、強くなれているのか。



「だが才だけでは勝てねェ。 結局努力してる奴には勝てんぞ」



その言葉に、少しだけ道が見えた気がしたんだ。

もっと、もっと強くなるには、努力しなければ。

この際、丸太でも良い。
丸太でも良いから、何か、やるんだ。


少しだけだが、この男に感謝するべきだろうか。

だけど俺の性格上、素直に言えるような事は出来なかった。



「興味ねえなァ。 丸太振って強くなれりゃ訳ねえんだよ」



回数でも気組みでも良い。

とにかく、強くなれるってんなら俺はなんでもする。


 


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