志裏偉事
□沈んで浮いて
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金も尽きた頃、野盗に襲われた。
金を寄越せと、金目の物を出せと。
金なんて無い、むしろ欲しいくらいだと吐き捨てるように言えば目の前に剣先が突き付けられて、その腰の刀はなんだと言われた。
あとは体を押さえつけられ、懐に入れていた母の簪も見つけられてしまう。
その後腹と顔を殴られ、地面に転がされて男達が騒ぐのを吐き気で潤んだ目で睨み付ける。
俺が弱いから。
俺がもっと強ければ、父の刀と母の簪はあの男達の手の中に無かったはずだ。
それ以前に労咳にかからなくて済んで、父も母も死ななかったはずだ。
あの女の人も、確実に助けられたはずなんだ。
強ければ。
気付けば俺は走り出して、男の一人から刀を抜き取り、まず母の簪を持った奴の腕を切り落とした。
つんざくような悲鳴を意識の遠くに聞きながら、落下する腕から血で汚れる前に簪を奪い取る。
それに気付いた男達が次々と斬り掛かって来る中、全て払いのけ逆に斬りつけていく。
ついには父の刀を持った野盗頭らしき奴一人になり、焦ったそいつが握った父の刀を引き抜こうとしたのを見逃さず、抜かれる前に胸に突き立て地面に押し倒す。
「…てめェなんかが使って良い刀じゃねェんだ」
見開かれた目に、ゴプリと血を吐き出す野盗頭を睨み付け、低い声で一人言のように呟く。
突き立てた刀をそのままに、父の刀を持って歩いた。
川に着いて、服を着たまま飛び込んだ。
バシャリバシャリと顔を洗って、水に映る自分の顔はどんな顔をしていたのかなど想像にかたくない。
情けない、酷い顔をしていた事だろう。
そうしてずっと行く先々の道場に道場破りまがい行為を繰り返すうちに、どうやら俺を放って置けなくなったらしく、朝起きて見れば木刀を持った男達に囲まれていた。
二十…いや、それ以上居るか。
中には昨日やったむさ苦しい男共も居て、懲りないもんだと鼻で笑う。
それに苛立ったのか、ずっと座ったままでいる俺に「立て」と口々に騒ぎ出した。
俺は言われた通り立ち、男共の中に自ら歩いて進む。
この人数相手に勝てるなんざ思っちゃいない。
全員倒せるなんざ思っちゃいない。
ただやらないなんて事はしねェ。
逃げるなんて事はしねェ。
勝てるかもしれないならやってやる。
勝てるまでやってやる。
それだけだ。