志裏偉事
□沈んで浮いて
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「聞ィてんのかオラァ!」
むさ苦しい顔をして、これまたむさ苦しい体格をした男達に囲まれながら、はてさて面倒な事になりやがったと他人事のように思う。
むさ苦しいんだから向こう行け、でなきゃこっち向くな。
単体でもむさ苦しいんだから一人で行動しろよ、うじゃうじゃ集まりゃごまかせるとでも思ってんのか。
そいつは勘違いだ。
余計むさ苦しくなるだけだ。
――大体、何でこんな事になったんだか。
今までの過去を振り返ってみても、何ら良い事なんざありゃしない。
極普通の家庭に生まれた、極普通の日本男児だったはずだ。
ただ少し違っていたのは、周りより顔や体形・運動能力が良くて、いわゆるマヨラーと言われるぐらいマヨネーズが好きで。
……ただ少し早く死んだだけだ。
死んだ日の事は今でもはっきりと思い出せる。
よく晴れた夏の日で、家族で海に出かけた。
そして浜辺にシートだなんだを広げた後、各自好き勝手に泳ぎ始めて。
適当にブラブラと波打ち際を歩いたり海に入ったりしながら、自分なりに楽しみながら時間を過ごしていた時だった。
沖の方でバシャバシャと、水しぶきが上がっているのが見えた。
よくよく見ればそれは人で、明らかにおかしいその様子にすぐ溺れているのだと気付いた俺は急いで泳いで向かう。
どうやら若い女らしく、白い肌に似合う色素の薄い髪が印象的だった。
岩場の多い場所なうえ、波も荒く潮も強い。
おそらく流されてしまったんだろう。
パニック状態の女性をなんとか引き寄せて、それでも暴れる彼女をなだめようと抱えた瞬間、これまでより全く違う強く高い波が体にのしかかってきた。
女性を離さないようにと強く抱き締めた時、ガツンッ、と頭に激しい痛みが走って、意識が途切れる。
覚えているのはここまで。
分かっているのは、あの状況からして俺は岩に頭をぶつけたんだろう事と…、…俺は死んだ事。
分かっていないのは彼女が助かったのかどうか。
まぁ結果俺は死んで、次の瞬間には俺は赤ん坊っつー訳だ。
「っとぉ」
振られた木刀を体を捻り避けて、その勢いのまま相手の腹に己の木刀をぶち込む。
相手が崩れ落ちてその場で反吐を吐くのを見るのにも慣れて、今じゃご愛嬌だ。