中編
□夢幻
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酷く、静かだ。酒を注ぐ水音と、机に置く猪口の音だけがただ響いていた。
静寂がただ万事屋に響く中、桂がふぅと短く息を吐いた。
「……銀時」
「ああ?」
桂の問いかけに、銀時は酒を一気に飲み干してから、怠そうに返事を返す。
「……お前なら、――斬るか?」
何を、とは聞かない。聞くまでもなくそれはかつて共に戦った馴染みのものだと分かっているからだ。
「――斬る」
とん、と机に猪口を置いてから、ただ一言。そう言い放つ。その一言にどれほどの覚悟と想いが重なっているかを、知るものは一体何人いるのだろうか。
「――そうだな、聞くまでもない。……俺はまだ躊躇っているようだ――かつて共に戦った仲間を、この手で斬る……という事に」
チャキ、と左手で静かに鯉口を切る。鞘から少し覗いた刀身は、月に照らされ淡く煌めいた。
「……お前は、――躊躇わないのか」
刀から手を離してから、銀時を見据える。銀時は猪口に入った酒に目を向けていた。