中編

□笑ってろよバーカ
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ずり、と鈍く光る黒い厚底のブーツが、地面を擦る。意味もなく頭をわしゃわしゃと掻いて、懐に左腕を入れた。


「ふぁああー」


お天道様がサンサンと降り注ぐ万事屋の前で、大きな欠伸を一つ。大袈裟に口を開いて空を仰いだ。


「暇だ」


眠そうな半開きの目で(というかいつもそうだが)流れる雲をただ眺める。その時だった。


暫く上を見ていたため首が悲鳴をあげそうな、つりそうな状態に近づいてきていたのを感じたので、ふう、と一息ついて下に顔を向けた時。


茶髪のくりんくりんと見事にモジャモジャの毛玉が、視界に入った。一瞬人違いかとも考えたが、こんな頭は他にはないと勝手に納得した。


毛玉は、どうやら下のババアの店から出た所だったようで、キョロキョロと辺りを見回していた。たまにチカチカと日光に反射して光る丸いサングラスを鬱陶しく思いながら、手摺りに右腕をかけた。


「オーイ、坂本」


俺の声に反応して毛玉が、一瞬ピクリと微かに停止する。するとまた更に、激しくキョロキョロ……というよりかは、もうブンブンと頭をふりながら辺りを見回している。どうやら、俺がどこにいるかはわかっていないようだ。


「上だ上ーっバーカバーカ」


ついでに文句も付け足して坂本を再度呼び掛けると、は、と坂本は遂に上へと顔を向けた。ハタから見ても分かるほど、ぱあっと満面の笑みになる。
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