中編

□あっぱれ彼
1ページ/5ページ



「坂本辰馬ゆうきに、よろしくのう」


「俺ァ坂田銀時。よろしく頼まァ」


最初に出会った時から彼は何か違っていた。まわりの輩はピンと張り詰めたように気を尖らせているのに対して、彼は、飄々としていて、例えるならソレは猫。ゆるゆると掴み所がない雰囲気を纏っていて、不思議なヤツだと思った。


「明日からまた戦なんだから、飲み過ぎんじゃねーぞォ」


その好きに跳ね回っているふわふわとした印象を受ける銀髪の天然パーマをわしわしと指に絡めながら無造作に掻く。


皆とは離れ、縁側で一人酒を飲む彼を見た時、やはり不思議だと思った。


月を見上げるその瞳(め)は、どこか哀しみと辛さを帯びていて、だが確かに何か強い光が灯っている。酒をくいっと煽り、彼はやはり月を見上げる。否、月では無いのかも知れない。ソレよりもまだ遠くの物を見据えているような、そんな感じだった。


──戦。


己こと坂本辰馬は、此方の長州藩に来訪してから初めての出陣だった。運が良いのか悪いのか。隊の最前線に出され、結果的には高杉晋助と隣り合わせの出陣だった。己の力量を試している事は明らかだった。


「てめーらァ!気ィ抜くんじゃねーぞ!!敵は本能寺にありィィィ!」

「いや、お前。そりゃ違ェだろ」

「アッハハハハ!相変わらず金時は面白いヤツじゃのう!」


「オイ坂本、貴様も空気を読め」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ