中編
□白いやつ。
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パンッパンッ
竹刀の擦れ、激しく打ち合う音が道場に鳴り響く。
汗を滲んだ両手は、竹刀の柄を離さぬようにするので精一杯だった。
落としたら負け。
負けず嫌いな己にまとっては、無くてはならないミスだ。
段々と押されていき、一歩一歩と、後退る。
その度に擦れる袴が気に食わなかったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
負けるわけにはいかない。
ましてや、己より年下のガキ等に。
荒い息遣いで、乾いている喉が嫌で、唾を飲み込んだ。
少しはマシになったが、そのせいで呼吸が更に苦しくなってしまった。
唾を飲み込む時間でさえ、己の肺は酸素をもとめていた。
次第に重くなって行く足を無理矢理動かし、横に真っ直ぐ竹刀をふった。
ソレを避けるため、相手は距離をとる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
己よりも息遣いが荒い相手を観察すれば、もうリミットだ。
後の一発がこの勝負の賭けだと、自ら足を踏みこみ飛び出した。
パァンッ!
先程より一際大きな甲高い音がなり、一泊遅れて竹刀が地へ半円を描き、落ちた。
衝撃で一度跳ねるのを見れるほど、スローモーションに見えた。
「総悟の勝ち」
ドスの入った声がそう言い、張り詰めていた空気が、一気に溶け、周りのもの達が騒ぎだす。
己が負けた。
「ぅおおぉお!すげーっ!」
「レベルのたっけえ!」
「俺たちじゃ適いそうもねえな!」
その声が五月蝿くて、一つ溜め息をついてから、道場を出た。