the transient world
□ゴールからのスタート
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ぺたぺたぺた。
誰もいない、静まり返った校舎では名無しの足音が良く響く。
痛んだ廊下や校舎の壁を見渡しながら、懐かしがっていると自然にピタリと足が止まった。
ぬ〜べ〜と出逢った教室。
みんなと出逢った教室…。
吸い込まれるように中に入る。
扉を開けた瞬間、言葉では説明できない思い出の香りがした。
規則的に並べられた机。
昨日までは思い出が詰まっていたのに、今では空っぽだ。
ゆっくりと足を一歩一歩と進めていく。
そして毎朝登校するように、自分の席だった机に手を伸ばした。
イスを引いて、座る。
「(そうだこの感触…。一番前の席で、ぬ〜べ〜の授業を聞いて…)」
ぬ〜べ〜の声を子守唄にするかの如く、居眠りしたっけ…。
さびしく想いながら、最後の最後、いつものように名無しは机に突っ伏した。
外から卒業生の声がする。
中にはぬ〜べ〜の声も。
『おいおい、お前ら!』
『早く笑ってよぬ〜べ〜!卒業写真なんだから!』
『まったくしょうがないな』
今思えば幸せだったのかもしれない。
好きな人の、恋人の声を毎日こうしてきけていたのだから。
「(卒業、したくないかも…)」
そんな弱音を吐きながらゆっくり目を閉じる。
ぬ〜べ〜の声、騒がしい生徒たちの声、教室、私の机。
だめだ、ついいつもの感覚で眠ってしまいそうになる。
最近は受験で疲れなども溜まり、なかなか寝れなかったせいか――。
気が付けば私は眠りについていた。
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