the transient world

□お金じゃ買えないもの
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頬杖をつき、黒板をボーっと眺めていた秀一の視界はクラスメイトの名無しに寄って覆われた。

顔をあと三センチでも動かせば、唇が重なってしまうような距離に恋愛経験豊富なはずの秀一は大いに慌てる。

何十人という桁の女性と付き合っていたというのに未だに名無しは馴れない。
なぜなら、秀一は名無しに好意を抱いているからだった。


「ちょっ…名無しくん!離れてくれっ」

「あ、ごめん秀一くん。これじゃ黒板見えないもんね。ノート移し終わった?」

「まだ…だけど」


どうやらこの少女には、自覚がないらしい。
だからこそ、秀一も名無しをふり向かせるので必死なのだ。

どれだけアプローチしても、名無しはまったくといって秀一の想いに気づかないのだから。

今も、キスができてしまいそうな距離に近づいてきたから恥ずかしくなり、離れてくれと言ったのにもかかわらず…。
――名無しは秀一が黒板を見ていて、ノートが写せないから言ったと勘違いをしている。

きっと自分以外にも、名無しに恋をしている男は苦労しているのであろう。

初めて真剣に好きになった女性がこれなのだから噂で聞いた、名無しを諦めた男子が多いのも頷ける。

頭を抱え、悩む秀一。
そんな秀一をよそに、笑顔を浮かべる名無しは不意にとある教師の名を口にした。


「ねえ、聞いてよ秀一くん」

「な、なに」

「ぬ〜べ〜ったらね。私の事を子供扱いするの。お前は怖がりだから入るなってお化け屋敷にも入れてくれなかったのよ」

「お化け屋敷?」

「うん」


どういう事かすっかりわからない。
だって――だって今の話を聞くと二人が遊園地に行ったようにしか聞こえないじゃないか。

強張る表情をどうにか隠そうとする秀一だったが何故かこの少女はこういう事には敏感だ。

すぐに具合が悪いのかと問いかけてきた。


「大丈夫?具合悪そうだよ」

「ううん。大丈夫。それよりお化け屋敷ってことは二人で行ったの?遊園地」

「なっ…そんなわけないよ!郷子ちゃんたちもいたよ。そそ、そんなぬ〜べ〜と私だけなんて」

「……………ぬ〜べ〜と私だけだと、なんなの?」


きっと今、名無しの頭の中は、名無しと鵺野が遊園地に行っている映像が流れているのだろう。

頬が赤くなり、動揺している名無しが憎たらしくて秀一は睨むかのように名無しを見つめた。

名無しは…――名無しは多分、鵺野の事が好きだ。
これはあくまでも秀一の予想だが、間違いないだろう。

いつも鵺野の話をすると、楽しそうだし、何しろ反応が変わる。
秀一とは、こんなに近くで話していても大丈夫なのに、これが鵺野になると顔が真っ赤になるのだ。


「キミも僕も、きっと叶わぬ恋だろうね」


ぽろりと本音が口に出る。
けれどその言葉は名無しには届かなくて、名無しは不思議そうに顔を顰めた。


「へ…?秀一くんなんか言った?」

「いや、何でもないよ」

「そう…。でね――」


どうにかならないことってあるんだ、と何回も確信しては溜息。

もし、お金でどうにかなるのなら…。
君の彼に対する愛を買占め、僕に向けて――そして君を僕の物にしたいよ。



§あとがき

秀一夢をリクエストされた記憶が…うーん。
されたっけ…?どうも思い出せない!

秀一くんの口調が、性格がいまいちわからないです。
ド深夜に小説書くことがこんなにつらいこととは考えもしませんでした。
数え切れないほどの脱字と誤字が…!
展開も早過ぎな気がしますね…


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