the transient world
□せんせーの苦悩
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名無しの様子がおかしいと気付いたのはつい、三日前。
一緒に帰ろうとしても避けられ、話しかけてもなんだかそっけない。
何か機嫌を損ねるようなことをしたかと考えるが覚えもなく…。
「たぁ〜まぁ〜もぉ〜…あんにゃろう…!」
なんだか、不安になりかけていた俺は今日、その不安な気持ちを煽るような光景を目にした。
名無しの家の前には玉藻の車。
さしずめ、送ってもらったんだろう。
車から降りてきた名無しと玉藻はなんだか楽しげで――ここ何日間か名無しと関係がぎくしゃくしている俺には、二人の姿が羨ましく思えた。
壁の陰に隠れて、二人の様子を見る。
こういうことはあまりしたくないものだが、二人の会話が気になって仕方なかった。
聞き耳を立て、会話を聞いていると――。
「わざわざ送ってくれて…玉藻先生、ありがとうございます」
「いえ。それで、さっきの事ですが…」
ん?さっきのこと?
結構距離が離れているせいか、あまり会話が聞こえない。
必死で聞き取ろうとしていると、会話をし終えたのか玉藻が車に乗った。
運転席の窓を開け、玉藻はまた名無しに何か言っている。
「あなたは、十分魅力的ですから」
最後に聞こえた言葉は、それだった。
ああ、俺は今酷い顔をしているに違いない。
俺の心が酷く気づ付いたのは玉藻の言葉ではなく、その言葉で頬を赤らめる名無しの姿を見てだった。
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