人間の女は馬鹿馬鹿しい。
いや、人間自体馬鹿馬鹿しい。
人を恐れることなく、愛し、裏切られ傷つく。
自分の想いも伝えることなく、一方的に失恋して――。
それで一人で泣くんだ。
鬼の僕には理解できないよ。
「ひっく…ぁ、うぁあ…」
小さな、小さな彼女の泣き声が部屋に響く。
頬に流れるその雫を手で拭いながら、名無しは必死に溢れる感情を止めようと必死だった。
何?そんなに好きだったの?
「ご愁傷さま。見事な失恋っぷりだったね」
「………酷い、少しは慰めてくれてもっ…」
「あんな男、失恋して良かったじゃない。どこがいいの」
そう聞くと、名無しは嗚咽を堪えながら、それはもう僕が聞きたくないような話を続けた。
「全部…先生の外側も内側も…優しいところとか…っ」
「ふーん…」
「強くて、優しくて…教師として私たちを守ってくれるところとか…」
「……………」
いつの間にか、嗚咽は止まり、名無しはあの男について語り始める。
また、いつものだ。
僕、これ嫌なんだよね。
いつもだったら、話題を華麗に変えて聞きたくないこの話をスルーするところだけど。
君が泣きやむんだったら聞いてあげても良いだなんて、鬼も落ちぶれたものだ。
「でも…先生は、俺は教師だからお前を生徒としか見れないって…」
「……………逃げたんだよ」
「え…?」
「彼は君の事を好きじゃなかった。でも断るのが面倒くさくて、教師と生徒だなんて理由付けて逃げたんだね」
「ち、違うよ…違う、」
「だって…」
教師と生徒の壁なんて、人間と鬼に比べれば容易いじゃないか。
思わず良いそうになった言葉を飲み込み、涙で滲む名無しの瞳を見つめる。
ああ、本当に嫌だ。
あの男の言葉で、まるで自分の想いが絶対に叶わないと明確にされたみたいで。
名無しを慰めようと思っていた気持ちが薄れていく。
再び、失恋の時の事を思い出したのか泣きだす名無し。
ほんと泣かないでよ。
泣くなら僕の為に泣いて。
誰かを想って涙を流さないで。
それで――僕だけに笑顔を見せてよ。
やめてよ。
あんな男の為に泣くなんて。
もうほんと、
あんな男のどこがいい!
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・あとがき
リク小説です。
リクエストしてくれた方へ…甘くなくてすみません!
絶鬼はリクエストの数も多いので、また今度甘めの小説を書かせていただきます!!