the transient world

□あんな男のどこがいい!
1ページ/1ページ



人間の女は馬鹿馬鹿しい。
いや、人間自体馬鹿馬鹿しい。

人を恐れることなく、愛し、裏切られ傷つく。

自分の想いも伝えることなく、一方的に失恋して――。
それで一人で泣くんだ。

鬼の僕には理解できないよ。


「ひっく…ぁ、うぁあ…」


小さな、小さな彼女の泣き声が部屋に響く。
頬に流れるその雫を手で拭いながら、名無しは必死に溢れる感情を止めようと必死だった。

何?そんなに好きだったの?


「ご愁傷さま。見事な失恋っぷりだったね」

「………酷い、少しは慰めてくれてもっ…」

「あんな男、失恋して良かったじゃない。どこがいいの」


そう聞くと、名無しは嗚咽を堪えながら、それはもう僕が聞きたくないような話を続けた。


「全部…先生の外側も内側も…優しいところとか…っ」

「ふーん…」

「強くて、優しくて…教師として私たちを守ってくれるところとか…」

「……………」


いつの間にか、嗚咽は止まり、名無しはあの男について語り始める。
また、いつものだ。
僕、これ嫌なんだよね。

いつもだったら、話題を華麗に変えて聞きたくないこの話をスルーするところだけど。
君が泣きやむんだったら聞いてあげても良いだなんて、鬼も落ちぶれたものだ。


「でも…先生は、俺は教師だからお前を生徒としか見れないって…」

「……………逃げたんだよ」

「え…?」

「彼は君の事を好きじゃなかった。でも断るのが面倒くさくて、教師と生徒だなんて理由付けて逃げたんだね」

「ち、違うよ…違う、」

「だって…」


教師と生徒の壁なんて、人間と鬼に比べれば容易いじゃないか。

思わず良いそうになった言葉を飲み込み、涙で滲む名無しの瞳を見つめる。


ああ、本当に嫌だ。

あの男の言葉で、まるで自分の想いが絶対に叶わないと明確にされたみたいで。
名無しを慰めようと思っていた気持ちが薄れていく。

再び、失恋の時の事を思い出したのか泣きだす名無し。


ほんと泣かないでよ。

泣くなら僕の為に泣いて。
誰かを想って涙を流さないで。

それで――僕だけに笑顔を見せてよ。

やめてよ。
あんな男の為に泣くなんて。


もうほんと、
あんな男のどこがいい!



________

・あとがき

リク小説です。
リクエストしてくれた方へ…甘くなくてすみません!
絶鬼はリクエストの数も多いので、また今度甘めの小説を書かせていただきます!!
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ