the transient world
□素直な気持ち
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高校教師ぬ〜べ〜と高校生ヒロインちゃんです。
「綺麗だね〜ぬ〜べ〜!」
ちらほらと、空から降る雪が街を白く染めていく。
30センチほどの間を開け、横を歩く生徒を見ると、彼女は首に巻いたマフラーに顔を埋めていた。
その手は、いつもの手袋を忘れたのか指先は赤く悴んでいる。
こう言う時、恋人同士だったら握ってやるもんなのかな〜、などと考えながら上着のポケットに手を突っ込むと、隣から嬉しそうな声が聞こえた。
「寒いね〜ぬ〜べ〜」
「そうだな」
少しずつ、少しずつ、二人の間が距離を縮まっていく。
あと数センチで手と手が触れそうな距離まで近づくと、俺は名無しの視線に気が付いた。
じーっと俺の手を見つめ、何か言いたそうに黙っている。
その視線にもどかしさを感じながら、俺はギャグ的な口調で名無しの手を握った。
「どうした〜?イケメン鵺野先生とてが繋ぎたいのか!?」
「ちょっぬ〜べ〜!」
かわいい反応。
いつもは生意気そうな名無しが顔を赤くして恥ずかしがる様子が面白くて、俺はそのまま茶化して見せた。
「ほらほら暖かいだろ?イケメン教師の手は普通の教師の手と違って愛という名の暖かさがあるからな!」
きもい〜、や、へんたーい!というツッコミを期待していた俺。
しかし、そのツッコミが飛んでくることはなかった。
「暖かいね、ぬ〜べ〜」
返ってきたものは、その言葉と握り返された名無しの手だけ。
その瞬間、みるみる自分の頬が赤くなっていくことに気が付いた。
あれれ?
あれれれれー?
二人で手を握り合わせた状態で一時停止する。
周りに他の生徒が居なくて助かった。
じゃなくてー!
なんで普通の反応なんだ名無し!
これじゃ、まるで…まるで…。
「ねえ、ぬ〜べ〜」
どきり、と胸が高鳴る。
静かに言葉を発した名無しの顔はほんのり赤く、それは生徒と言う顔ではなく女の子の顔だった。
どこか、期待する自分が居る。
教師としては可笑しい事で、行けないことだけれど――表側では否定するも、心の奥では期待する自分が居た。
ああ、俺もしかして名無しのこと…。
「………あっかんべー」
「は?」
「あはは、ぬ〜べ〜間抜けな顔してる」
一気に羞恥心が心に込み上げてきた。
期待した俺がバカだった。
そうだ、そんなことあるわけないのに。
「うるさい!名無しだって顔真っ赤だぞ。手、繋がれてドキドキしたんじゃないのかぁ〜?」
「なっ…ドキドキなんかしないよーだっ。ぬ〜べ〜こそドキドキしたんじゃないのぉ?かわいい教え子と手繋いじゃって!」
誰がだー、と名無しの柔らかい頬を摘むといつもの笑顔がそこにはあった。
いつも通りの名無しに戻れば、俺だっていつも通りのぬ〜べ〜に戻る。
そして先程と同じくいつも通りの二人で帰り道を歩いていると、別れ際に名無しが立ち止まった。
「じゃあ、ぬ〜べ〜。私こっちだから」
「ああ、寄り道するなよ〜?」
「しないよ!…っと、それと…」
「ん?」
ごそごそと通学用鞄を漁る名無し。
そしてその鞄の中から出てきたのは――小さな紙袋だった。
顔をほんのり赤くして、名無しが紙袋をこちらに差し出す。
その差し出し方はぶっきら棒で、だけどとても大事そうに紙袋を俺に差し出していた。
「これ、あげる」
「なんだ、これ…」
「っ…ぶくろ」
「ん?」
「てぶくろ!!」
もどかしくなったのか、名無しは袋を俺に押し付けた。
俺は袋を受け取り、中を覗く。
すると中には手編みだと思われる黒の毛糸の手袋が入っていた。
「黒か…」
「く、黒…嫌?」
「ぜんぜん!!いや〜、ありがたいよ!」
「ぬ〜べ〜って黒と赤っていうイメージあったから…」
だけど、赤の毛糸なくて…、ともじもじする名無し。
俺はそんな名無しからの贈り物を身につけ、はにかんだ。
「暖かいよ、サンキューな名無し」
「喜んでもらえたようで…じゃあ私はここで退散とさせていただきますっ」
「おう。気おつけて帰れよー」
「うん!」
くるり、と一回転して笑顔を浮かべる名無し。
そんな名無しの去っていく後ろ姿を見つめながら、俺は両手から染みわたる温もりを感じた。
ゆっくりと肩手を上に上げ、ドキドキと高鳴る胸を抑える。
やっぱりドキドキしてる、とガッカリしながらも胸に湧き上がる感情を抑える事は出来なかった。
「おーい名無し!」
「なあにぬ〜べ〜!」
「家まで送ってってやるよ」
暗くて危ないからな、そう言い訳をつけて名無しに駆け寄っていく。
送ってやると言った名無しの顔はやっぱり嬉しそうで、俺と同じく赤くて…。
教師として失格だろうけど、俺はそれが嬉しかった。
認めてはいけない感情。
だけども今だけは――。
end 自分の気持ちに素直になっていいですか?
-あとがき-
去年くらいに書いた奴をちょこちょこ直してアップです!
それにしても文章が酷い。
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