the transient world

□嫉妬心と羞恥心
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※高校生パロです






「ねえ聞いた?名無しと玉藻先生って付き合ってるんだってー」

「嘘だぁ!」

「ほんとほんと、B組の子が見たらしいんだけどさー」


偶然、生徒とすれ違う瞬間に耳に入ってきた言葉。
その言葉に鵺野はふと足を止めた。

――名無し…。

先程の女子生徒が口に出していた名前。

鵺野の推測が正しければ、それは自分の生徒であり恋人である名無しの事だろう。
この学校では、名無しなんて名前は一人しかいないはずだ。

そしてもう一人、名無しと一緒に名を挙げられていた玉藻という人物…。

玉藻とはやはり、自分のライバルであり忌々しいあの校医に違いないだろう。
名無しと同様、この名前の人物はうちの高校に一人しかいない。

なら、なぜ?
何故、名無しと玉藻が付き合っているという噂が流れているんだ。


教師である自分が、はっきりとは言ってはいけないが名無しと付き合っているのは自分だ。

そう、名無しの担任である鵺野鳴介。
すなわち自分。

なのに玉藻と付き合っている、などという事実には程遠い噂が流れているなんて。

そこまで考えて、鵺野は唇に指を添え探偵が推理しているかのようなポーズをとった。


「まさか、な…」


噂好きの高校生の事だ。
まあ、事実ではないのだから許してやろう。
けれど噂の経緯が理解できない。

そしてさっきの言葉。

『B組の子が見たらしいんだけどさー』


「何を見たっていうんだよ!」


思わず声を上げてしまうほどに、思考回路がこんがらがる。
噂に左右されてはいけないことぐらい、教師である以上わかってはいるけれども。

い、る、け、れ、ど、も…――恋人の話になれば別だ。


「ぐぬぬぬぬ…」


もやもやとする心理の中で頭を抱える。
まるで苦虫を十匹は噛み潰したような苦情を浮かべ、唸る教師、鵺野を周りの生徒たちは避けて通り過ぎて行った。


「何アレ〜。鵺野先生の事だから、また霊と格闘しているのかしら」

「わかる!きゃはは」


(女子高生の話なんて聞くだけ無駄か…うん、無駄無駄)


小馬鹿にされたことで、ハッと顔を赤らめ、我に戻った鵺野は自分に何度も言い聞かせた。

そして教科書を片手に、職員室へと足を向かわせる。

その時。


「―――っ!?」


偶々、廊下の窓から中庭に目を移した鵺野は瞳を大きく揺らす。
震えた声音で紡ぎだした言葉は、鵺野の思考回路を狂わせていたあの二人だった。


「名無し…と玉藻?」


ぽつりと呟きながら、窓に手を当てる。

生徒たちが慌てて、教室に駆け寄っていき。
次々と鵺野の後ろを通り過ぎていく。

その中で一人、時がとまったように窓の外を見る鵺野。

呆然とする鵺野には授業開始の予鈴は最早聞こえてはいなかった。




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