幾何学的平行線

□ひねくれ少年の憂鬱
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杞紗→龍可
燈路→ルチアーノ
透→龍亞
夾→ジャック
紅葉→プラシド

○大まかな流れ
ルチ→ルカな感じのルチアーノは、ルカと仲良しなルアを見て、(初対面で)無理矢理カードを奪取。そのまま逃走するも、ジャックに見付かって……

*****



バタバタと騒がしい足音と共に、その場に龍亞が現れた。肩を大きく上下させ、相当な距離を相当なスピードで走ってきた事を窺わせる。
それを見て、ルチアーノは咄嗟に逃げようとするが、ジャックに掴まれている手を振りほどくのは不可能だった。


「ル、ルチアーノ……っ!カード……カードを……っ!」

荒い息のまま必死に言葉をつむぐ龍亞を見て、状況を理解していないジャックは目を丸くする。

「龍亞?どうかしたのか?」

「あ、ジャック。こんな所で何して…………まあ、それはどうでも良いや。ルチアーノ!」

龍亞は、ルチアーノをキッと睨み付けた。ルチアーノは、少しだけ緩んだジャックの拘束を解き、龍亞にしかめっ面を向けた。

「うわぁ……何ここまで追って来てるの?必死だねぇ……キヒヒ」

「ルチアーノ!龍亞に何かしたのか!」

雰囲気を察したジャックがルチアーノに問う。
ルチアーノはそんなジャックに、思い切り嘲る様な表情を向けた。

「別にぃ?ただちょーっと、龍亞のカードを頂いただけさ!」

「何っ!今すぐ龍亞に返してやれ!」

「はぁー?何言ってんの?その間抜けが『取ってくれ』って頼んだんだよ……ヒャハハハ!」

「間抜けだと!」

激昂したジャックが大人気無く、ルチアーノの胸元を掴む。だがルチアーノは顔色ひとつ変えずに、にやっと笑ってジャックを見上げた。

「僕を殴る気ぃ?ま、幼児虐待の罪に問われたいなら勝手にすればぁ?」

ルチアーノの挑発に乗せられ、ジャックが更に額の青筋を増やした時、


「ル、ルチアーノくん……!」

先程までその場にいなかった少女の声が聞こえ、ジャックは素早くルチアーノから手を離し、ルチアーノは目を見開いて声のした方を見た。

今駆け付けたらしい龍可が、心配そうな表情で龍亞とジャック、ルチアーノを見ていた。

「ルチアーノくん、龍亞のカード……取ったの?」

「龍可!」

片割れが駆け付けた事で勢い付いたのか、龍亞は先程よりずっと強気な視線を、ルチアーノに向けた。
騒ぎの元凶であるルチアーノは、ぶすっとした顔を龍可に向け、その視線はすぐに、龍可の背後に立っている人物に向いた。

騒ぎを聞き付け、どうやらルチアーノの仕業らしいと知ったプラシドが、ルチアーノが唯一弱点とする人物……龍可を連れてきた様だ。


「成程ね……全部プラシドの差し金って訳」

ルチアーノの苦々しい表情を見て、プラシドはにやりと口角を上げた。
そんなプラシドの様子など知る筈も無く、龍可はただ、目の前の状況を心配している様である。


「ルチアーノくん……お願いだから、龍亞にカードを返して?龍亞に意地悪したら駄目よ!」

ルチアーノは龍可から顔を背け、口を尖らせて足元を睨み付けている。龍可は、そんなルチアーノの顔を覗き込んだ。

「ルチアーノくん?」

「………馬っ鹿みたい」


ルチアーノは呟くと、キッと顔を上げ、奪ったカードを龍亞の肩に叩き付けた。

「僕だって、要らないよ!こんなカード!」

そのルチアーノの態度に、ジャックは再び怒りのボルテージを上げ、「ルチアーノ!」と叫ぶ。
一連の流れに気疲れがしたのか、龍亞は溜め息をついてカードを拾い上げた。

「もう良いよジャック。カードは返ってきたんだし」

「良い訳が無いだろう!」


ぎゃあぎゃあと喚くジャックを後目に、龍可はルチアーノに詰め寄る。

「ルチアーノくん……!どうしたの?どうしてこんな……………こんな事したら………嫌だよ……」

今にも泣き出しそうな龍可を見て、ルチアーノは舌打ちをする。ぱっと視線を上げて龍可を睨んだその顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。


「……龍亞、龍亞って!何だよいつも……いつも、龍亞の話ばっかりしてさ!」

突然のルチアーノの剣幕に、龍可は驚いてルチアーノを見つめる。ルチアーノは構わずに、そのままの勢いで続けた。

「ボードだって、さっさと龍亞の所に持ってって……!何でだよ!僕があげたのに!僕が……一緒に滑ろうって、」

龍可に向かって怒鳴り続けるルチアーノを、ジャックは「訳が分からない」という表情で、龍亞はとても不機嫌そうに、プラシドはにやにやと笑いながら見ている。

龍可自身は、ルチアーノが何故自分に怒っているのか、全く分かっていなかった。それというのも、数日前にルチアーノからボードを貰った時のルチアーノの言葉を思い出していたのだ。


『僕は興味無いけど、龍可はこういうの好きでしょ?』

『あげるよ、このボード』

『僕は興味無いけどさっ!』


「……でもルチアーノくん、ボードくれた時…………一言も、そんな事」

「そんな事、いちいち口で言わせる訳!?察してよ!」

「ルチアーノ、無茶を言ってるぞ」

「煩いよ下っ端!」

茶々を入れたプラシドに、ルチアーノがキツい一言を浴びせる。
ひとりだけ良く理解していないジャックが、眉間に皺を寄せたまま「何がどうなっている?」と呟く。

「ジャックは鈍過ぎだよ!」

隣にいた龍亞が、これまた不機嫌そうに吐き捨てた。

「龍亞は分かっているのか?」

「ふん、別に。でも龍可には手出しさせない!」

「………?」


真っ赤になって黙り込んだルチアーノを見て、どうやら龍可も全てを察したらしい。ふわりと柔らかく、ルチアーノに笑いかけた。


「ごめんね、ルチアーノくん。今度は一緒に、滑ろうね?」

「…………勝手にすれば!」

ルチアーノは捨て台詞を吐き、しかしどこか軽快な足取りで走り出す。

「待てルチアーノ!龍亞に謝らんか!」

ジャックが大声で呼び止めると、ルチアーノはくるりと振り返り、べえっと舌を出した。

「取られる方が悪いんだよ!キィヒャハハハ!」

「何だと!」


怒ったジャックはルチアーノを追うが、ルチアーノは風の様に逃げ去っていく。
またしばらく、ルチアーノとジャックの不毛な追い掛けっこが続くのだろうと、龍亞と龍可は、顔を見合わせて笑った。

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