夢の痕
□野良猫に餌をあげるとついてくる
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「はあ……はあ……」
荒い息を静めながら、名前は辺りを見回した。
全く見覚えの無い街並み。人影は少なく、どうやらここは裏道のようだ。
「何で……こんな事に、」
ここに来た時の事は、いまいち覚えていなかった。ただ、いつもみたいにカードショップで何パックか買って、家に帰って開けてみて、そしたら……
「おい、お前。そこで何をしている」
男性の声で話し掛けられ、名前の肩が大きく跳ねた。振り返ってみると、金髪で白いコートを纏った、厳しそうな青年が立っていた。
「何故こんな所にいる?」
「あ、えーと……」
「最近、違法改造のDホイールを乗り回す輩がいるのは知っているだろう。分かったらさっさと帰れ」
「あ、あの!」
馬鹿馬鹿しい質問だとは思うが、名前は思い切って口を開いた。
「ここ………どこですか?」
名前の予想通り、青年は不可解そうな表情をしながら、名前に詰め寄ってくる。
「何を言っているんだ?」
「あ、いえ……あの、」
「ネオドミノシティに決まっているだろう。まさか、迷子か?」
「あー………そんな感じかなあ、なんて……」
名前の頭の中を、あらゆる単語が飛び交う。
Dホイールに、ネオドミノシティ。名前だけは聞いた事がある。
名前は遊戯王に関してはどちらかと言うとカードゲーム派だが、アニメにも興味が無い訳では無かった。
「確か………5D'sの……」
「ん?何だ、流石に5D'sは知っているか」
青年は、少しだけ得意気にふふんと笑った。
(ああ、そう言えばこの人……)
テレビで見た事がある。主要キャラクターのひとりだった筈だ。
「あの、つかぬことをお聞きしますが」
「ん?」
「あなたのお名前は……」
「俺の名前を知らんだと?」
どうやら、物凄く不満だったらしい。急に不機嫌になった青年に睨まれ、名前は内心で「やっちゃった」と舌を出した。
「俺の名は、ジャック・アトラスだ!」
「あ、そっか元キングの人か」
「誰が元キングだ!」
「へあ!ごめんなさい!」
どうやらこっちの方が癪だったらしい。ジャックは既に隠し切れていない苛々を全面的に押し出しながら、名前をじろじろと眺める。
「……………で、お前は何者だ」
「私ですか?えっと、私は名前と申します」
「迷子か。どこから来た」
「迷子、と言いますか………えっと……」
ジャックと話していて、どうやら5D'sの世界にトリップしてしまったという事はほぼ確定した。
が、問題はこれからどうするか……。
「あの、ジャックさんは……異世界とか、信じます……か?」
「異世界?ああ」
「えっ」
「それがどうした」
「あ、いや……」
そうだった忘れてた。
何でもアリの遊戯王だった。
「私、多分その……異世界から迷い込んじゃったんですよね」
「何?やはり迷子か」
「まあ、迷子っちゃ迷子ですね」
「行くアテは」
「無いです……」
ジャックはしばらく考えると、ついてこいと名前に合図した。
ジャックの後ろを歩きながらしばらくすると、少しだけ見覚えのあるガレージに着いた。
「ここは……」
「遊星!」
ジャックが呼んでしばらくすると、開け放たれたままのガレージの奥から、特徴的な髪型の彼が顔を覗かせた。
「ジャックか。それと……」
遊星と名前の視線が合う。名前は慌てて、ぺこりと頭を下げた。
「あ、名前と申します」
「ああ………俺は、不動遊星だ。ジャック、」
説明しろ、という視線を投げ掛けると、ジャックは無駄に偉そうに、腕を組んだまま言い放った。
「迷子を拾った」
(お母さん、どうやら名前は、ネコ扱いされてるみたいです)