Novel
□人の業
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時は第二次世界大戦の終わり頃。
処は日本。
哀しみのキモチの集合体であるおんなのこは、とある指揮官の部屋へと向かっていた。
彼女は、“のこ”という愛称が好きだった。
そして同時に、嫌いだった。
何故ならば、その愛称は彼女に名前が無いことを示すからである。
“のこちゃん”
彼女が抱いたアンティークドール――目深に帽子を被っているから目深帽子という――が、彼女に呼びかける。
なぁに?
口が無く、喋れない彼女は、目深ととある旧友にはテレパシーで、他の人には紙に文字を書いて喋る。
“ホントウに、いいの?”
目深帽子は心配そうに彼女を見上げる。
彼女は、彼を抱く腕に僅かに力を入れ、もう片方の手に持ったスケッチブックとペンをきつく握りしめる。
そしてゆっくりと頷くと、目の前の大きな扉に手をかける。
軋んだ音を立てて、扉は開いた。
部屋の中には、世にも不機嫌そうな顔をした男が書類を捲っていた。