瑠璃・日常
□東方日常譚 9
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夕暮れの道を歩く月影。命蓮寺をどうやって出てきたのか、覚えていない。気がついたら一人で歩いていた。目の周りがやけに貼りついた感じがする。湖に映った自分の目は、夕日よりも赤かった。
(八つ当たりなど……。小生はなんとひどい事を……)
今思えば、初対面で優しくしてくれた人達にひどいことをしてしまった。謝らなくてはならない。でも、今は謝れる気がしない。
(……どうして、小生は武器が似合わぬのだ)
トボトボと歩く。湖の近くにある建物を目指して。それは夕日を受けてなお赤い。
「咲夜さん、ですか?」
「はい……」
美鈴は久々の来訪者の言葉に首をかしげる。何故なら――
「月影さん、あなた確か咲夜さんが苦手じゃありませんでした?」
「うぅっ……!」
そう。初めてこの紅魔館に入った日のファーストコンタクトが史上稀に見る最悪なものだったため、咲夜は月影にとって恐怖そのものになっているのだ。
「あれは最悪でござった……」
「口から泡を吹いてましたもんねぇ。でも会いたいんですか?」
「……ナイフを扱うのは、十六夜殿だけにございましょう?」
「そうね」
相変わらず突然の登場をする咲夜。月影は軽く悲鳴を上げると美鈴の後ろに隠れる。
「……用がないなら戻るけど」
「いやその、な、ナイフを教えていただきたく……」
「ナイフ投げということ?」
「はい」
咲夜はチラリと美鈴をうかがう。美鈴は軽く肩を上げる。
“さあ?”
咲夜は気づかれないようにため息をついたが、美鈴は苦笑いを浮かべた。
「……あなた、人を殺したことはある?」
「な、ないです!そんな怖いこと……」
「じゃあ喧嘩は?弾幕ごっこは別で」
「ほとんどありませぬ……。争いごとは嫌いゆえ……」
「では、どうしてナイフを習いたいの?」
「身を守るためです。ランプ以外にも身を守る手段を得たいのです」
無言でナイフを取り出すと――、突然首に突きつけた。そのあまりに冷たい殺意に月影は動くことができない。そして気のせいか夕日のせいか、咲夜の瞳が赤く染まったかのように見えた。