浅葱・短編

□命に誇りを、令に誉れを
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『ぎゃああぁあぁあぁ!!!』

そこは紅魔館。悲鳴と言うには易すぎる絶叫。広き幻想郷でも数少ない『門番』たる紅美鈴は、瞬時に表情を曇らせる。そして門を妖精メイド達に任せ、玄関の扉をくぐった。





命に誇りを、令に誉れを





時は少し遡る。その日の昼頃。紅魔館に近づく影。素早く感知する美鈴。しかし、どうも様子がおかしい。

(……あれ、もしかして)

どうも同じ場所をウロウロしながらずっと紅魔館をうかがっている。そこで美鈴はわざと近くの木立に石を投げ込み音を立てた。やはりその影は音のする方に歩いてきて、自分を見つけるとほっとした顔をして歩み寄ってきた。

「旅は道連れ世は情けと申しますけれど、良かった。人間に出会えるとは」

「あの、私、人間じゃありませんよ?妖怪です」

「……え?妖怪?」

「はい。私はこの紅魔館の門番、紅美鈴。れっきとした妖怪です」

その人間(?)はじーっと自分を見ると、突然近くの木の後ろに隠れた。

「……あの?」

「いや、妖怪は人を食べると聞き及んでおりますゆえ」

何なのだろう。この人間は。

「……もし私があなたを食べるのが目的だとしたら、もうとっくに食べてますよ。隙だらけですもん。――今だって」

荒く一息、美鈴は体内の気を操り瞬間的に脚力を上げる。そして相手の背後に回る。相手からすれば瞬間移動にも見えるスピードだ。
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