瑠璃・日常
□東方日常譚 5
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暑い暑い夏だ。蝉はこれでもかと己を主張し、ヒマワリは背伸びしてまで太陽を追う。アイスキャンデーという製氷菓子が子供達に一時の涼をもたらす頃、月影は慧音の家にいた。
東方日常譚
〜秋巡御神譚〜
「慧音先生ー、大蝦蟇様の池の水、汲んできました。それと博麗神社からお神酒も」
「すまないな、使いに行かせて。それとそっちの部屋に野菜があるだろう。持ってこれるか?」
「慧音ー、やってる?」
「妹紅、来てくれたのか!」
慧音の家では簡易だが神棚が作られ、神事に使う大蝦蟇の池の水が捧げられている。お神酒の近くにやはり捧げられたのは、数種類の野菜。
「ねぇ慧音、これでちゃんと来るの?」
「来る?」
「月影にはまだ説明してなかったな。今日のこれは、秋神様をお呼びして豊穣を約束してもらおうと思ってな。ほら、今年は異変のせいで雪が長かっただろう?」
「あぁ……。作物の実りが不安ですな」
「皆は秋に秋神様を招いて祀るが、本当は秋の前に呼ばねば豊穣は約束されない。だが、この事は里の誰にも言うなよ。神の力ばかりを当てにして働かなくなったら困る。それは神の信頼を裏切ることになるからな」
『はーい』
いざ準備は整い、三人は秋神様の到来を待つ。特に事前に呼ばなくても、神とは誰を祀り誰を必要としているのかは分かるものらしいとは慧音談。
「ねぇ月影、お腹すかない?」
「小生、朝から博麗神社に行ったのでもう空腹で……」
「静かに待てないなら静かにさせようか?」
二人してとっさに額を抑えた。
「……来た?」
妹紅がふっと戸の外を見る。月影にはさっぱり分からないが、慧音は妹紅にうなずく。やがて香ばしい焼き芋の匂いがしてきて――
「秋神様、ようこそいらっしゃいました」
扉を開けて無言で入って来たのは、秋穣子様。短い金色の髪に赤い帽子、ブドウのような飾りが付いている。スカートもフワフワしている。
「……この神棚を作ったのは、誰?」
ようやく口を開いたと思ったら、深刻そうに聞く。月影と妹紅は何か間違えたかと顔を見合わせた。
「私ですが……」
「あなた、あなたなのね?ねぇお願い!あなたにしか頼めない!お願い、行方不明のお姉ちゃんを探し出して!」
これが、月影二度目の大冒険の幕開けであった。