瑠璃・日常

□東方日常譚 1
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「も、妹紅殿!しっかり!気を確かに……!」

「それでも死なないわ。その子は――、彼女は“蓬莱の人の形”ですもの」





東方日常譚
 〜新月の冒険譚〜




博麗大結界によって外の世界と隔離された閉じた世界。この楽園を人は「幻想郷」という。小生はここで生まれた。

幻想郷の人間の里。今小生はここで生活している。生業は「何でも屋」で、子守から品物届けまで幅広く扱っており客には困らない。人も妖怪も、依頼して下さるから。
ほら、今日もさっそく呼び声が。

「月影ー!この筆を稗田様の所まで届けてくれ!」

「承りましたー!」

お呼びがかかったのは里の道具屋の主。小生は箱を受け取り、稗田様の家へ向かう。使用人の方が阿求様に取り次いでくれた。

「あなたは里の便利屋さんですね」

「左様にございます。この橘洪慈月影、道具屋の主より筆をお届けに参りました」

何でも屋と言っても、いつも内容はこんなもの。実にたわいない。外の世界では「小間使い」というらしい。

「お礼は……。では、これでいかがでしょう?」

「これは阿求様が書かれた『幻想郷縁起』ではないですか!宜しいので?」

「はい。どうぞ」

前から欲しかった品が手に入ると、大変感激する。しかし、いつもこうとは限らない。





「お久しぶりね、便利屋さん。この壷を私の家まで運んで下さる?花を保存したりしたいのよ」

小生の腰よりも高い位置に口をのぞかせるその大きな壷を前に、その方――風見幽香殿――は優雅に微笑んでみせた。

「が、合点承知致しました……」

「あぁ、私の家は太陽の畑にあるのだけど、もし向日葵の葉を折ったらあなたの葉を、花を壊したら花を、壷を割ったら壷をそれぞれ叩きのめすから。嫌なら私と戦っても構わないわよ?」

葉=歯
花=鼻
壷=ツボ。死刑宣告に等しい。

「それもできずして、便利屋さんかしら?」

「……そんなはず、ございませぬから便利屋にございます」

「なら良かったわ。無様な人間らしさを見たいのも本音だけど、どっちでも構わないからとりあえず壷をよろしくね?」

……これでお得意様でさえなければ、さらに最強に近い能力を持つ妖怪でさえなければ、一言ぐらい文句を言うのだが。いかにせん、小生は無力な人間である。

ちなみにいつも報酬は彼女の家の不要なガラクタだ。売って金にしろ、ということらしい。
時折こんな依頼もあるが、基本的には前述したような小間使いが多い。

しかし、生まれて初めての大冒険がやってきた。
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