花紫・変異

□東方鏡映譚 一手
1ページ/8ページ

天狗から号外がばらまかれるのと同時に、里の守護者・上白沢慧音が斬られたとの話は瞬く間に幻想郷にしれわたる。これが示すこと。


幻想郷に、何かが起こっている。そしてそれは『異変』を起こしているのではない。そこにあるのは本物の――、悪意。





号外は全ての面で『切り裂き魔』について報じている。今のところ判明している被害者、犯行の特徴など。しかし具体的な対策が書かれていないことが、人々の不安をよりあおっていた。

「そうですか、慧音先生は命に別状はないと……」

号外を受け取り内容に目を通しながら、昨夜起こった事件のあらましを聞く。昨夜は家にいなかったからだ。

「だからな月影、一人は危ねぇからできるだけ誰かといろよ? そりゃおめーは便利屋もあるが……」

「お心遣い感謝します。されど小生、このような時だからこそ便利屋をやりたいのです。皆が不安だからこそ、小生が動かねばならぬかと……」

「……そうけぇ。なら本当に、無理すんでねぇぞ」

里の男が月影の家から帰った後で。

「……一人でなきゃ、斬れなくなるだろうが」

『月影』が忌々しそうに吐き捨て、号外を乱暴に机の上に置く。その偽物はチラリと部屋にある全身鏡を見た。『月影』の姿を映すさらに奥に見える鏡の世界には、未だ囚われた本物の月影が。

(これまでで三人……。まぁまぁか。条件が厳しい中じゃ上出来だ。何より……)

口元が弧を描く。

(便利屋のおかげで、里にいなくても怪しまれないのが役得すぎる。あいつをコピーして正解だったな)

犯行を行うには鏡の世界にいる必要がある。ほとんど単独行動である月影という素性は最高の隠れ蓑。実際昨日慧音が襲われた時に姿が見えなかったことを、誰一人怪しんでいないのだから。

(さて……。そろそろ来るんじゃねぇか? スキマ妖怪さん? 俺が最も警戒すべき御仁がよ)

あくまで偶然なのだが、正にそれに応えるように空中に隙間が走る。ぎょろりと見開かれた瞳の向こうから、金髪の淑女が現れる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ