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□2010武誕(完結)
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「うわっ、なに、獄寺、今までどこ行ってたんだよっ」
「うっせ。ゲーセンでどんだけ時間潰す気なんだよ。飽きたから帰る」
「・・・・飽きたって、おまえ・・・ちょ、獄寺っ」


呼びとめる声を無視して店を出る獄寺の背中を追いかけた。


「今まで何してたんだよ。俺ずっと待ってたんだぜ」
「俺がどこで何しようと俺の勝手だろ。お前にいちいち報告する義務はねぇ」
「一緒に遊んでるのに別々にいる方がおかしくね?」
「べつに俺は今日元々お前とゲーセンになんか来る予定じゃなかったし」
「・・・・・・なんだよそれ・・・・」


振り向こうともせず、スタスタと前を歩く獄寺の背中を見ながら俺はなんだかすごく悲しい気持ちになっていた。


「なんでそんなひどいこと言えんの、獄寺。俺今日誕生日なのに・・・・・・」


獄寺が俺に対して素っ気ないのなんて今に始まったことじゃないけど、そんな言い方はないじゃないか。恋人と一緒に過ごす楽しいはずの自分の誕生日に、なんで好きな奴からそんな悲しいこと言われなくちゃならないんだ。悲しすぎて言葉が見つからない。


小走りで追いかけていた足を止めて黙って俯いていると、目の前の獄寺もピタッと足を止めて振り返った。何か言いたそうに少し押し黙ってなにやら難しそうに眉をしかめて静かに呟く。



「お前の誕生日が今日だなんて全然知らなかった。俺は・・・・・・・」


そう言って、獄寺はなんの曇りもないような真っすぐな透き通った瞳で俺を見た。吸い込まれるようなエメラルドグリーンの瞳と、瞬きをするたびにチラチラと揺れる長い睫毛。獄寺は少し伏し目がちになって、言葉を続けた。


「俺のことは嫌ってくらいしつこく聞いてくんのに、お前自分のことは俺になんも話さねぇじゃねーか。なのに誕生日だからとかどうとか言われたって、んなの知るかっての」
「獄寺だって俺の誕生日なんてべつに気にかけてなかっただろ。今まで聞かれたことだってなかったし」
「それはっ・・・・・・」


言いかけた言葉を喉の奥に押し込めるように呑みこんで、獄寺はまた背を向けた。


「・・・・・・けねぇんだよ・・・」
「え?」



「俺はっ・・・そういうことは聞けねぇんだよっっ」
バシっっっっ!!!!!


獄寺の怒鳴るような声がしたと同時に、俺の胸元あたりに小さくて固いなにかが投げつけられる。その小さな何かは地面にリバウンドして微かな音をたてた。


足元に転がるそれは野球のボールとバットのプレートがついたキーホルダーだった。




「・・・・・獄寺、これ、」
「なんでもお前のペースで物事考えんじゃねぇよ!そうやっていつもいつも俺のことなんか無視して自分の好きなことばっか言いやがって・・・・」
「なぁ、獄寺、これさ、」
「あ?いらねぇってんなら返せ」
「駄目、これ俺のっ」


獄寺の手を振りほどくように俺は身体をのけ反った。なんとかキーホルダーを死守する。

「・・・・・・・・俺のって・・てめーはガキか!そもそもソレ、お前のもんじゃねぇだろ。俺が必死こいて1時間かけてやっと手にしたもんだぞ」


そこまで言うとハッとして獄寺は口を噤んで俯いた。



(1時間ずっとこれ取ってたんだ・・・・得意じゃないのに、俺のために・・・・)


なんで獄寺ってこんな・・・・・。いつだってそうだ。言葉と態度が裏腹、憎まれ口叩くのに耳まで真っ赤。


機嫌悪くして怒って俺とは口も聞きたくなくて、俺といるのつまらなくて1人で遊んでるのかと思ってた。


いつだってすげえ分かりづらい。でも獄寺はちゃんと俺のことを想ってくれてる。何気ないことだけど、こういうことがあるたび俺は気付かされるんだ。


数少ない獄寺の言葉を拾っていく。数少ない俺に向けるサインを見逃さない。獄寺の言葉は俺には分かりづらくて。誕生日くらい何で聞けないのかなんて、もっと言葉が欲しいだなんて今更過ぎること言えない。でも今目の前にいる獄寺を見れば一瞬でそんなことどうでもよくなるんだ。






「ありがとう、獄寺。これ大事にするから」
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