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□2010武誕(完結)
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「なに獄寺?こんなのが欲しいの?」




目の前のガラスの向こうに積み上げられた大量のぬいぐるみ。ぬいぐるみと言っても女の子が好きになるような可愛らしいものなんかじゃなくて、頭の先が三つに分かれていてどれが目か鼻かも分からないような、異質極まりないなんとも形容しづらい物体。生き物かどうかも怪しい。何かのキャラクターの失敗作みたいだなこりゃ。



例えるなら・・・宇宙人?未確認生物?こんな得体の知れない奇妙な物体に目をキラキラ輝かせるんだからやっぱり獄寺はおもしれぇな。


学校が終わって一緒に帰る途中にふらっと寄ったゲーセン。店に入るやいなや、すぐさま目の前のUFOキャッチャーのガラスに張り付いて獄寺は興奮した様子で「これこれ!前欲しいって言ってたやつ!」と、その変てこりんな物体を指さして俺に言ってきた。



「すげぇ欲しくて5千円もつぎ込んだけど取れなかった・・・・」
「・・・・えっ、これに5千円?????」
「なんだテメー。馬鹿にしてんのかっ!」
「だって獄寺、コレがなにか分かってて言ってんの?これ何かのキャラクター?」
「んなの知るか!でもすげぇ興味そそられるんだよな、こいつ。動物なのか人間なのかさえ全く分からない未知なる生物・・・・・手に入れないわけにいかねぇだろうがっ」
「そうか?でもなんか気持ち悪ぃぜ、この人形。頭3つに裂けてるし、手足はあんのに目と鼻がどれだかよく分かんねーし・・・・獄寺悪趣味なのな」
「コイツの魅力がお前みたいな野球馬鹿に分かってたまるかっ!くそっ、今回こそ手に入れてみせるっ」





あまりにも獄寺が瞳を輝かせて熱弁するものだから『しょうがねぇな〜』って俺はポケットから財布をだして獄寺の肩を押しのけてお金を入れた。




「ちょ、山本てめぇなにっ・・・」
「まぁまぁいいからいいから。こんなの俺が一発で取ってやっから」


放課後野球部のやつらとよくゲーセン寄って遊んでるから実はこういうの得意なんだよな。パチパチッと上下のボタンを押すとクレーンが思ってたとおりの場所に進んで、その奇妙な物体の右腕を掴んだ。30秒もかからないうちに手に入れることができた。




「はい、獄寺。あげるっ」
「・・・・・・・・・・・・」



目の前に人形を突きだすと、獄寺は黙ったまま俯く。




「ん?どうした?いらねぇの??」
「俺がっ・・・・俺がどんだけ粘っても取れなかったものを山本お前・・・・・・っ」



ぷるぷると震える拳を握りしめて、ギロッと俺を睨みつける獄寺。




「やっぱお前なんて嫌いだっ」
「えっ・・・・ちょ、獄寺、」


そう言い放つと、呼びかける声を無視して背を向けて怒ったような歩き方で獄寺はその場から去っていった。








獄寺の機嫌を損ねて約1時間。さっきの場所にぽつんと一人放置されたままで、獄寺はというとまだ戻ってこない。目の前にあるスロットにコインを入れて、くるくると回転する数字をぼーっと見ていた。


機嫌を悪くした獄寺に取りつく島なんてない。これはいつものことだ。もう慣れてる。それにしたって、獄寺の怒るポイントが未だに分からないから困る。どういう場面で、どういう言葉で俺は獄寺をむかつかせてしまうんだろう。友達期間もそれなりにあって付き合って1年近く経つというのに。


一旦獄寺がむすっとなってしまうと、どんなに話しかけたって無駄だと分かっているから、さっきだって無理に追いかけたりしなかった。『何怒ってんの?』と聞きでもしたら鉄拳が飛んでくるに決まってる。『それくらいちょっと考えたら分かるだろーが』って言われて、余計獄寺の機嫌を悪くさせてしまうだけだ。それくらいの空気なら俺にだって読めるよ。



だからって独り置き去りにされるのは結構悲しいもんだ。いつもなら30分くらいしたら獄寺の機嫌は大体直ってて気がつけば俺の隣にひょっこり戻ってきたりするのにな



誕生日だってのに全然めでたくない。獄寺と一緒に誕生日を過ごせるだけで嬉しいと思っていたのに、逆に獄寺を怒らせちまって・・・・・俺ってほんと馬鹿。




「・・・・・・・はぁ」


思わずため息がこぼれた。



「どんだけシケた面してんだ、おまえ」

頭を軽く小突かれたかと思うと、振り向けばすぐ近くに、眉をしかめる獄寺の顔があった。
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