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□ひみつ(連載中)
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(※山本視点)







その日の獄寺はなんだか様子がおかしくて、態度もよそよそしかった。

久しぶりに2人っきりで帰ってるっていうのに一人スタスタ前歩いてるし、話しかけても一言二言返すだけ。手を繋ぎたくて出しかけた右手は、手持ちぶたさになってしまって、仕方なくズボンのポケットにしまう。



「なぁ、獄寺歩くの早くね?」
「・・・・・・・・てめぇが遅いんだよ」

振り向くこともせず背中を向けたまま獄寺は言葉を返す。


(・・・・・・機嫌悪ぃなぁ獄寺・・・)


付き合う前まではこんなこと日常茶飯事だったけど、最近の獄寺は割と俺に素直で機嫌が良い日なんて獄寺から『一緒に帰ろうぜ』なんて言ってくる時もあった。まぁ、相変わらず手はなかなか繋がせてもらえないけどさ。


今日なんて、ツナが用事があるからって先帰っちゃって、久しぶりに2人で帰ることになったっていうのに獄寺のヤツ先に帰ろうとしたから、慌てて引きとめて『一緒に帰ろう』って誘って今のこの状況。


「なぁ、獄寺、やっぱ今日なんかおかしいぞお前」


あまりに早足で歩くもんだから思わずそう言うと、獄寺の肩が一瞬ビクッと震えた・・ように見えた。



「・・・・・・おかしくなんかねーよ。いつも通りだっつの。何疑ってんだよ」

やっと振り返ったと思うと、獄寺はありえないくらいの鋭い目つきで俺を睨みつけた。

(いやいやいや、おかしいだろ・・・・・なにその目つき・・・・)


まるで初めて出会った時みたいな態度なのな、獄寺。


「・・・疑ってるってなんだよ。べつにそんなこと言ってるわけじゃないよ。久しぶりに一緒に帰ってんだからもっとゆっくり歩こうぜ?勿体ないじゃん」
「な、なんだよ、勿体ないって。キモイんだよ、おめーは!」
「だっていつも獄寺はツナにべったりでさ、3人で一緒に帰る時なんて目も合わせてくれねぇじゃん?恥ずかしいのは分かんだけど、今は2人なんだからさ。な?ゆっくり帰ろう?」


今度は迷うことなく獄寺の手を掴む。いつもみたいに振りほどかれると思った手は意外にあっさりと俺の手中に収まった。




いつもの帰り道とは違う、人通りが少ないルートを選んで帰る。獄寺と2人で一緒に帰る時はいつもこの道。手を繋いだままゆっくり歩きながら、今日学校であった出来事や俺の部活のこと、マフィアごっこの話なんかをしながら帰った。俺が時々笑ったり合間で獄寺が相槌を打ったり、信じられないくらい穏やかな時間が流れる。




「なぁ、ごくでら」
「・・・・・なんだよ」
「今日このまま俺んち寄ってかね?」


思い切ってそう言うと、獄寺は驚いた表情で俺の方に顔を向けた。


手を繋いで2人で一緒に帰れるというこんな単純なことで、俺は嬉しくなってすぐに調子に乗ってしまう。勢いで誘ってしまったと言えば聞こえは悪いけど2人で帰る時はいつだってこのまま獄寺を家に帰したくない・・ってそう思っていた。

別に、獄寺とこれ以上どうにかなりたいとかそんなことを考えてるわけじゃない。(まぁ、全く下心がないと言えば嘘になるけどさ)


ただ・・・・もっともっと獄寺と一緒にいたい、同じ空間で同じ時間を過ごしたい。獄寺にそんなことを言っちまえば『いつも学校で一緒にいるだろ』ってそう言われるんだろうけど・・・・。そういうのとはまた違う、違うんだ。


他の誰かがいたら獄寺は意識して変に俺を遠ざけようとするし、隣にツナがいればツナのことしか目に入っていない。まぁ、そんなことは今までずっとそうだったし、別にそんなことはそこまで問題にしていない。むしろそれには慣れていて、学校でいる時も俺だけを見て欲しいとか俺と一緒にいて欲しいとか、獄寺を縛るような真似はしたくないし、俺だって誰かにそんなふうに束縛されるのはあんまり好きじゃない。


だから、こうやって今みたいに2人だけでいられる時間は俺にとってはすげぇ大切で、どんなものにも変えられないくらい大事な時間なんだ。だから、その時間がもっと長く続けばいいのになっていつも思ってる。


(一緒に帰るだけじゃ物足りなくなってきてんのかな俺・・・)


黙りこくる獄寺を見兼ねて、俺は慌てて話しを続けた。


「無理にとは言わねーし、もし獄寺がこのあと予定がないってんならどうかなって思ってさ、べつに深い意味はねぇから」

そう言いかけたところで獄寺が足を止める。じっと俺の目を見て静かに口を開けた。


「・・・・・・・別に・・・行ってやってもいい」





きゅっと唇を固く結んでそう言うと、獄寺は繋いだ手を強く握り返した。
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