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□獄寺んち-獄ver-
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変な沈黙が続いて、俺は耐えれなくなって点けたばかりの煙草を消すと立ちあがってベッドの方に逃げ込んだ。



(アホっ!俺のアホッ!!なんであんなキモいこと言っちゃったんだ!!ううっ・・・)

布団をかぶって山本に見られないように顔を隠した。やべーよ。すげぇ恥ずかしいよ。なんで俺が山本ごときにこんな醜態を・・・・



「・・・・獄寺、」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「獄寺ってば」


山本の俺の名前を呼ぶ声を無視し続けるわけにもいかず、仕方なくのっそりと布団から顔を出すと、思ってたより近くに山本の顔があって驚いて身体をのけ反った。


「て、てっめー!!ビックリすんだろうがっ・・・!」
「ははっ!」
「『ははっ』じゃ、ねー!」

気がつけば数センチ距離にあった山本の顔を右腕で押しのけていた。

ビックリした、ビックリした、ビックリした!!!!!心臓が張り裂けるかと思った!いきなりこんな至近距離とか心構えが出来ていない。



「ち、近ぇって・・!」

それでもなお顔を近づけてこようとしてくる山本。


さっきまでお前バリバリお菓子食ってたじゃねぇか。なんも考えてないような面してたくせに。

「獄寺、こっち向いてくれよ」


山本は落ち着いた声で言うと、俺の両手を掴んでぎゅっと握りしめた。いつの間にか山本はベッドの上まで上がってきていた。逃げることなんて出来ないぜって言いたいみたいに俺の腕を掴んだまま、じっと視線を反らさない。


なんだよ。いきなりそんな真剣な目で見てくんな。2ヶ月間なにもしてこなかったくせに部屋に入れてやったらいきなりこれかよ。


嬉しいのか、困るのか、焦っているのか、ドキドキしているのか。自分でもよく分からない気持ちになっていた。


山本の部屋で2人きりで遊んだことは何度かあったのに、一度としてそんな甘い空気になかったことはなかった。まぁ、下の階に親父さんがいるってのもあったし付き合ってまだそんなに経ってないからお互いそういう空気になるのが照れくさくて、わざと意識してないような態度を取ったり、必要以上に友達っぽく振る舞ったりしてたってのもあるが。


でもそれはお互いに、だ。別に俺だけが恥ずかしくてそういう態度を取ってたわけじゃない。山本だって俺に指一本触れてこなかったし、ある一定の距離を保っていた。

付き合う前まではどんなに近くにいても、いきなり後ろから腕や肩を掴まれたりしても全然なんともなかったのに。


いざ山本をそういう目で見るようになってからは・・・・・全然余裕なんかなくて、悪態ついても笑顔で返されると対応に戸惑ったりして、俺が俺じゃなくなってしまいそうで時々怖くなる。


「・・・・ねぇ獄寺ってば。聞こえてる?」
「う、うるせー・・・・こんな至近距離で何回も名前呼ぶんじゃねぇよ。聞こえてるっつーの。この野球馬鹿っ」


山本が柔らかく強く握りしめてくる手が熱くてたまらない。

ふと顔を上げると、山本と視線がぶつかった。なんの曇りもないような真っすぐな瞳で俺を見る山本。思わず視線が反らせなくて息を飲んだ。


『ごくり』という唾を飲み込む音が聞こえてないか焦って、俺は視線を反らした。


(なんだ、この雰囲気!!!す、すっげえええ恥ずかしいぞ!?ううっ・・・死にたい)


自分の部屋なのに、自分の部屋にいる気がしない。どこか別の知らない他人の部屋に放り込まれたような気分。


「・・・・好き、好き獄寺、ほんと大好き・・・・」

そう言われて強く抱きしめられた。その瞬間、空気がまた一瞬にして変わった気がした。

山本の首筋から匂う微かな甘い香りが鼻をかすめる。身体をまるごとすっぽり両腕で覆われて、きつく強く抱きしめられた。

やばい。なんか、やばい。


一気に早打ちする心臓と、その甘い空気にそのまま流されて溺れてしまいそうな自分自身。一分後のことさえも想像できないくらい、この一瞬一瞬が余裕ない。


腕がほどけたかと思うと、山本は俺の肩を掴む。


「・・・・ごくでら」

そう囁く山本の甘い声と、真剣な眼差し。

(うわ、これって、これって、やばい、やばい、やばいっ・・・・・)
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