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□and I love You(完結)
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朝目が覚めると、昨日のことを思い出して気がつくと俺は泣いていた。



浅はかな自分を思い出しては後悔で頭がいっぱいになる。たまらなくなって、その場で頭を抱え込んだ。キリキリ頭痛がひどい。


昨日飲みすぎたからだろうか。


酒のせいなのか、自己嫌悪のせいなのか分からないけどとりあえず頭痛と吐き気がひどい。近くにあった柔らかな毛布を胸近くに寄せてぎゅーっと抱え込む。


今は駄目だ。何も考えられない。


放心状態のまま、しばらくその姿勢で時間をやり過ごした。


何でこんなことになってしまったんだ。自分で自分の取った行動が理解できない。全てを覚えてるわけじゃない。酒も入って気分もだいぶ高揚してた。だから、記憶はところどころ曖昧で断片的。


でも・・・それでも確実に覚えていることがある。

俺は脳裏をよぎるその記憶をかき消すかのように強く頭を振った。だけどそんなことしたって同じ。分かってる。分かってるんだ。


忘れたくても、きっと忘れられない。


頭を抱え込んで、目を閉じた。そして何も聞こえないように耳を塞ぐ。
何も見たくない。何も覚えていない。忘れたい。

俺はふいに隣に目をやった。スースーと気持ちよさそうに寝息をたてる山本。俺が毛布を奪いとったせいで、おもむろに山本の上半身が裸のままむき出しになっていた。

そして俺はまた目を伏せる。


こんなふうになりたかったわけじゃない。
こんなこと望んでいたわけじゃないのに。








「・・・・・っえっくしゅん!!」

くしゃみをしたと同時に生温かい鼻水がズルズルと音を立てる。やべ。風邪でも引いたか?少し寒気を感じて、俺はマフラーに顔を埋めた。


「獄寺くん、風邪?熱とかあるんじゃないの?大丈夫?」
隣を歩く十代目が心配そうな顔つきで聞いてきたので、俺は慌ててブンブンと強く首を振った。

「いえっ!大丈夫っス!!ご心配おかけしてすみません!こんなの大したことないんで、ほんとすぐ治りますから」
「そう?でもあんまり無理しないでね。今よりひどくなったら病院行きなよ?」
「お気遣いありがとうございます!!でもホント全然平気なんでっ。今日も十代目のためにバリバリ働きますから!!!」


俺が笑顔でそう言うと、十代目は苦笑いで「あ、ありがとう」と一言だけ答えた。


十代目に余計な心配をかけてしまった。
(駄目だな、俺・・・・)


今朝方、山本の家を出てから家帰って制服に着替えて即効で十代目を迎えに行った。慌てて用意したせいか、シャツはシワ寄ってるし、適当に結んだネクタイは緩んで形が崩れかけてるし。朝から気分もなにもかもが最低。



学校に行くまでのいつもの道をいつもと同じように十代目と笑って話しながら歩いていたのに、俺はどこか気分が晴れなくてずっと妙なしこりを感じていた。


そのしこりが何なのか、それくらい俺だって分かっている。

(クソっ・・・・・)


思い出すとまた気分が悪くなって、俺は足元に転がる小石を軽く蹴り飛ばした。


最低だ。最悪だ。山本が悪い。なにもかも山本のせいだ。
・・・・・・違う。


違う。

最低で最悪なのは俺か・・・・・。






それは思いもよらない出来事だった。はじめは本当にそんなつもりじゃなかったんだ。


『親父が出かけてて今日家にいないから来ない?』っていきなり山本に誘われて、別に特に予定があるわけでもない俺は、少し迷ったけど山本の家へ行くことにした。


そして、何をするわけでもなくだらだらと山本の部屋で漫画みたりゲームしたりして過ごしていた。2人でいる時は大体こんな感じだった。


いつもならそこに十代目も一緒にいるはずなんだけど、その日は2人だった。


大体、俺と山本が2人で遊ぶなんて早々あるわけじゃない。十代目の家に行く時に偶然道でばったり出くわしたり、十代目やアホ牛やハルたちと遊ぶ時に山本もそこにいたり。そういうことは今まで何度かあったけど、お互い連絡を取り合って遊ぶなんて、俺たちにとっては珍しいことだった。



漫画やゲームに飽きて、俺が煙草をふかしていると、山本が野球雑誌をペラペラ見ながら話しかけてきた。


「なぁ獄寺、お酒とか飲む?親父が知り合いの人にすげぇたくさんビールもらってきてさ。3箱くらいあんの。今日親父いねーしさ・・・・ちょっと飲んでみねぇ?」


その山本の一言で、缶ビール3本開けたくらいのところで俺はすでにもう酔いがまわり始めていた。すげぇ気分がいい。体が熱くなっていくのが分かる。頬も火照りだし、思考もぼーっと虚ろになっていく。


次第に自分のテンションも高くなって、普段は絶対山本に言わないことをペラペラと話したり、ありえないくらい笑いあったりして、なんだかおかしな気分だった。

すげぇくだらないことから、十代目の偉大さについて、ボンゴレの未来について、その他にも色んなことを山本と語った。ふだんから変わらずヘラヘラしてる山本はあんまり酔ってないように見えたけど、たまにすげぇ早口で喋ったり、ろれつが回っていなかったり、変なところで爆笑したり。アイツも結構酔ってたんだと思う。


酒の力を借りないと俺たちはスムーズに会話も出来ないのかと思うと少し笑えたけど。



「もー無理、もー限界」
「なんだよ獄寺ぁー。もうギブ?」

もう何本飲んだか分からない。すげぇ気持ちが良いけど、もう腹がいっぱいでこれ以上飲めない。

俺は片手に持っていた飲みかけの缶ビールを机に置いて、そのまま体を後ろに倒して寝そべった。体が熱くて熱くてたまらない。

「山本、暖房消せ」

山本は腰をゆっくり上げるとベッド近くのリモコンに手をやって暖房の電源を消した。その山本の後ろ姿をうつろいでいく視界の中、ぼーっと見ていた。

野球で鍛えられて、引き締まった身体のライン。シャツの上からでも分かった。暑そうにたくし上げた袖から伸びるのは細くて焼けた骨ばった腕。酔って少し赤くなっている肌、首元のライン。そういうところをマジマジと、でも薄れていく思考の中で見ていた。


(俺は変態か)


そう思い直して慌てて山本から視線を反らす。


馬鹿じゃねーのか俺。酔ってるから頭回らないだけだ。山本と2人きりで遊ぶなんて珍しいから思考がおかしくなってんだ。うん、きっとそうだ。

ずっと前に心の奥底へ押しやった山本への気持ち。フタを閉めて忘れようと決めた感情。俺はその時も、それを表に出さないように必死だった。


フラフラと千鳥足の山本が、どすん!と俺の隣に座った。

その距離、数センチ。



「なぁ獄寺、眠いの?」
「・・・・・んー・・・べつに」
「だって寝てるじゃん」
「寝そべってるだけだ。気にすんな」


俺がそう言った瞬間、いきなり山本が俺の髪に触れた。俺の肩がビクっと震える。


「獄寺の髪ってほんとすげぇ銀髪なんだな。こんな近くで見たの初めてかも。すげぇ綺麗な色だな〜・・・・肌も白いし、ハーフってそもそもの作りが違うよな、やっぱ」
「おい、テメー気安く触んじゃねぇ」
「あ、悪ぃ。ははっ」

ギロっと睨みつけると山本は笑って俺の髪から手を離した。



(近ぇーよ)


俺は心の中でそう呟きながら、内心少しドキドキしていた。何ひとり意識してんだ、と思いながらも、ふだん山本とこんなに近くなることはないから。

しかも何だよさっきのは。何の気もなしに髪触ったりとかすんじゃねーよ。肌がキレイとか言うな。俺のことそんな目で見んなよ。

山本にとっては何気ない行動でも、俺にとってはすげぇ心臓に悪い。

やっぱ今日山本の家なんか来るんじゃなかった。誘われたからって、調子に乗って来てしまった自分が心底嫌になる。こんなちょっとしたことで、今にも崩れてしまいそうになる弱すぎる理性と決心。


だけど、例えその理性が崩れたとしても、心に固く誓った決心が崩れたとしても、山本と俺がどうかなるなんてこと絶対にない。これは間違いなんだ。忘れろ、忘れろ。

そしてまた俺は思い出したように、呪文みたいに何度も自分自身に言い聞かせた。


(好きじゃない。好きじゃない。山本なんか好きにならない)
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