main

□ライン(完結)
2ページ/6ページ


次の日学校で獄寺に会った時にどんな顔をすればいいか分からなくて、すごく不自然な態度を取ってしまった。上手く表情が作れなくて目が合えば反射的に反らしてしまうほどに動揺していた。昨日のあの一件で意識しまくっている俺とは逆に、獄寺はまるで何もなかったみたいにツナと笑顔で話している。


(・・・・なんだよ)



昨日家に帰ってからずっと獄寺のことを考えていた。言われた言葉を脳内で反芻しては頭を振るという行動を何度繰り返しただろう。


獄寺が俺の事を好き?ずっと好きだった?


思いもよらないその告白にいくら頭を捻って考えてみても少しも真実味がない。冗談だったのか何だったのかよく分からない。「好きだ」と言われて頭が真っ白になるくらいに驚いたのに、こんなに意識しているのは俺だけなのかよ?だけど・・・・こころなしかいつもより獄寺と目が合わない気がする。そう言えば、今朝挨拶するのに声をかけてから獄寺とは一言も会話を交わしていない。


(・・・・・・あれ?ひょっとして俺避けられてる?)


そう言えば昨日、今後一切俺に話しかけるなとか半径3メートル以内に近寄るんじゃねぇとかそんなようなことを散々言われたっけ・・・・。


なんだよ。本気で俺と距離を置こうとしてるってのかよ、獄寺?



「どうしたの山本?」


弁当をつついていた箸の動きを止めてツナが俺に聞いてきた。

「眉間にシワよってる・・・・なにかあったの?」

ほらココ、ってツナに額のあたりを指さされてハッとする。やばい。意識が完全に違う方向へ飛んでた。俺の頭の中は昨日の夕方頃から時間が止まっているみたいだ。

目の前の獄寺と一瞬目が合ったけどすぐに反らされる。その態度にまた少し胸の奥がズキッと痛んだ。グルグルと回る昨日の出来事も、あからさまに素っ気ない獄寺の態度も全部振り切るように飲みかけの牛乳を喉の奥へと一気に流し込んだ。


「さっき授業で返ってきたテストが悪くてさ、今日から二週間、毎日補習受けろって言われたんだよなー。でも部活遅れていくの嫌で無理ですっつったら明後日また再テストするからって言われてさ。そのこと考えてたんだ・・・わりぃな」
「ああ、さっきの!あのテスト難しかったよね・・・」
「再テストでまた点取れなかったら補講決定なんだよ。来月試合あるし部活は絶対ちゃんと出たいんだよな・・・・ツナはテストどうだった?」
「俺はテスト前にリボーンにすごいしごかれてさぁ。そのおかげかもしれないけど、なんとか赤点ギリギリで補習はまぬがれそうだよ」
「まじかよっ!てっきりまたツナも補習受けるもんだと思ってた」

苦笑いするツナの隣で『てめぇそれはどういう意味だ』と言いたいように睨みを効かせる獄寺。それでもまたすぐにそっぽを向いた。

まさかのまさかで、いつも一緒に補習組のツナがいない。

(もしかして今回赤点取ったのって俺だけだったりして・・・)

この前のテストも赤点を取ってしまって、その時はクラスで俺とツナだけだった。勉強しなくちゃいけない上に部活に遅れていくっていう最悪な状況も、ツナがいたから気分もまだ幾らかマシだったのに。考えるだけで憂鬱になってきて、思わず口からため息がこぼれた。


「そうだ!ねぇ、獄寺くん」
「はいっ何でしょう十代目」
「山本の勉強一緒に見てあげたらどうかな?」


「えっ・・・・・」


ツナのその言葉に俺と獄寺の声が重なる。

「あさっての再テストで赤点じゃなかったらちゃんと部活にも出られるんだよね、山本」
「あ、うん、まぁそりゃそうだけど・・・」
「だったら獄寺くんに見てもらえばいいんじゃない?」

俺たちが今どういう状態なのか知らないツナはノー天気に満面の笑顔を浮かべて言ってきた。獄寺はと言えば明らかに困惑した表情。普通なら『冗談じゃねえ!!』の一言で回避できる状況も、相手がツナとなると別。それにしたって、もう近付くんじゃねえと言い放った昨日の今日。気まずいのは獄寺だけじゃない。俺だってどうすりゃいいか分からない。


「別にそれは俺じゃなくたって」
「獄寺くん頭いいし、前も俺の勉強見てくれたじゃん。山本のも見てあげてよ」
「・・・・・・それは十代目だったからでして、なんで俺が野球馬鹿の面倒なんか見なくちゃいけないんすか!」
「まぁまぁそう言わずに、ね、獄寺くんっ。俺を助けると思って」
「・・・・山本の勉強を見ることが何で十代目を助けになるのかは全然分からねぇっすけど・・・・十代目の命令とあらば仕方ないです。でも今回だけだからな、山本!!」
「よかったね、山本。頑張って!」


・・・・・今日初めて獄寺に名前を呼ばれた。ツナの言ったことは無下に断れず、まるで苦渋の決断でもしたみたいに一気に表情を曇らせる獄寺。

なんだよ。そんなに俺と一緒にいるのが嫌なのかよ。そしてまた昨日獄寺に言われた言葉を思い出した。だけど何度思い出してみたって、目の前にいる獄寺と昨日の言葉が繋がることはない。いや、それどころか昨日を境に一気に獄寺との関係が振り出しに戻った気がする。出会った頃みたいな、全身で突っかかってくるような態度と目つき。嫌われている理由も、もしかしたら好かれているかもしれない理由も俺にはなにひとつ分からない。


今も昔も獄寺の考えていることだけは、宇宙で探し物をしているみたいになかなか見つからない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ