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□ギフト
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人は、失くしてから大切なものに気付くってよく言うけど本当にそうだと今心から言える。はじめから分かっていた答えをまるで知らなかったみたいに当然のようにすましてみせて、それで俺はずっと自分が山本より幾らか優位に立っているような気でいた。ただの優越感に浸っていた。『別れ』という現実を突きつけられて、今俺が思うことはただひとつだけ。



どうしてもっとアイツに優しくなれなかったんだろう。どうしてもっと大事にできなかったんだろう。そんな言葉ばかりが頭の中を何度も何度も繰り返し音も立てにずに回っているだけで、だからと言って其れに答えがあるわけでもなくてただただ空しくなった。そして自分自身が心底嫌になる。


こうなるまでにもっと何かに気付けたはずだし、もっと何か出来たはずじゃないのか。


そして今日も自問自答。答えが出ない問いかけをエンドレスループ。


付き合って6年目にして俺たちは初めて別れを経験する。何もかも山本が初めてだった。アイツはどうか分からねぇけど、少なくとも俺にとっては山本とする全てのことが新鮮で初めてで。山本が俺に向かって発する言葉とか触れる指先とか、ちょっとしたことにでさえいちいち心が震えた。


だけど時間は確実に人を変える。人の心を変える。そして、大切なものや失くしては生きていけないようなものを簡単に忘れていってしまう。

14歳の頃から気付けばそれはごく当たり前にそこにあって、イイワケだと言われればそれまでだけど、だから気付けなかったんだ。気付かないふりをしていた。こうなることを恐れていたのは山本じゃない。


謝れば戻ってきてくれるのか?好きだと素直に言えばあいつは考え直してくれるのか?信じられないくらい弱気になっている。どうしよう。山本がいないとこんなにも俺は弱い。

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