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□ふたりぐらし(連載中)
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「ただいまぁ」


バタンッ。ガチャガチャ・・・バサッ。ドスンッ。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・ぐぅ・・・」



(!?)


(・・・・・・・・もう寝たのかよ。早ぇよ)



山本は帰ってくるなり風呂も入らずにズボンだけ脱いでベッドに入ると、3分経つか経たないかのうちにもう寝入っていた。俺は山本に背を向ける姿勢で寝たフリをしていた。耳のすぐ後ろから聞こえてくる山本の静かな寝息と、微かに漏れる息とシンと静まりかえった部屋にカチカチと鳴り響く時計の音がシンクロする。



その音を息を呑んで聴きながら、深夜のこんな時間に俺は声を殺して泣いていた。


こんなにすぐ近くに山本がいるのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。手を伸ばせばすぐ届く距離、いつでもどこでも確認し合えるこの狭い空間の中で俺は今までにないくらいの不安と絶望の中にいた。











山本と付き合ってもうすぐ4年になる。中2の終わりに山本に告白されて付き合い始めた。一言で4年と言っても、まぁ色々あったな。もちろん喧嘩も絶えなかった。


(まぁ一方的に俺がキレてただけなんだが・・・)


志望校を決める時だって、あいつ野球推薦きてたのに俺と十代目と離れるのが嫌だとかつって散々モメて大変だった。結局野球推薦がきてた高校のなかで、俺と十代目が通うところに一番近い高校を選んだわけだけど。高校が違っても待ち合わせして一緒に帰ったり、十代目の家に遊びに行ったりでそんなに離れてる感覚は俺にはなかった。



高校を卒業すると同時に「同棲しよう、獄寺!!!俺学校行きながらバイトすっから!!」って土下座する勢いで山本に懇願されて「まじで・・・」ってはじめは躊躇したけど別にそこまで拒否する理由もなかったし、俺たちは今年の4月から同棲を始めた。


同棲し始めたすぐは「こういうのは獄寺の方がセンスあんだから好きなの選んでよ」ってアイツ張り切って家具やら食器やら色々買い漁ったり、夜同じベッドで寝るときは毎晩飽きもせず「手つないだまま寝よ」とか「ずっと一緒にいような」とか「獄寺と毎日一緒に居られるなんて夢みたいだ」とか甘ったるくて反吐が出そうなことばっか言ってきやがって、途中正直うんざりしてた時期もあった。



だけどそういう時間は長くは続かなかった。




あいつは大学生で、野球しながらバイト。俺は俺でマフィアの仕事や十代目の警護とかを主にしながら時間が空いた時は軽くバイトしたりなんかしてると、一緒に住んでるのに顔を合わせる時間が始めに比べて、徐々に少なくなっていった。たまに時間がかぶっても、交わす言葉は一言二言。


この前なんて、仕事行こうと玄関のドアを開けたところに丁度帰ってきた山本とはち合わせ。眠そうにふら付いた足取りで瞼をこすりながら「ごくでら・・・なんか久しぶりだな〜」って言ってそのままベッド行って爆睡。靴ひもを結びながら、俺はなんだかすげぇ虚しい気持ちになったのを覚えている。


俺たちの生活リズムと山本の態度が変化すると同時に、身体を重ねる回数も目に見えて減っていった。暇さえあったら台所、風呂場、場所関係なく犬のさかりみたいに抱き合っていたのが嘘みたいに、今じゃ同じ部屋にいるのに一週間に一度すればいい方。この前山本と抱き合ったのなんていつだろうか?キスさえ覚えていない。それくらいのレベル。


一緒に住んでるつったって、会話さえろくに出来ていないんじゃ一緒にいる意味なんて果たしてあるのだろうか?最近はそんなことばかりを考えてしまう。悩みだした時は仕事が手につかないなんてこともあったけれど、今となっては仕事してる時の方が家にいる時よりも幾らか平穏な気持ちでいられんだから不思議なもんだ。


正直、山本がいる部屋に帰るのが辛い。2人でいたって息が詰まるようなあの雰囲気に、いつも胸の奥が押しつぶされそうになる。





「おい、テメェ・・・・・昨日俺が晩飯作る番だったから作ってやってたのに、なんで食べてねーんだよ!」




朝冷蔵庫を開けると、昨日四苦八苦しながら作ったチャーハンが俺がラップかけたままの状態で置いてあった。チャーハンだけじゃない。味噌汁も卵焼きも全部手をつけていない。昨日、帰ってすぐ寝たことを知っていたけど、最近の俺に対する山本の態度も含めると我慢ならなくて言わずにはいられなかった。


「・・・んあ?あー・・・・わりぃわりぃ。気づかんかった。今晩食べるから置いといてー」


そう言いながら山本はなにやらゴソゴソと探し物をしている様子。俺の方なんか見向きもせず、背を向けた状態で適当に答えるその姿に(またか・・・・)ってなる俺もどうやらこの状態に慣れてきたらしい。


なんだこれ?これが俗に言う「倦怠期」ってやつ?




(ふざけんな!)

バンッ!!!!!!




チャーハンと卵焼きと味噌汁を取り出すと思い切り強く冷蔵庫のドアを閉めた。その音に一瞬山本の肩がぴくりと動いた・・・・・ように見えた。それでも背を向けたまま無言で探し物をしている山本に更にムカついた。

ラップをビリリリッと破いてチャーハンを皿に盛り、ガチャガチャとわざと大袈裟な音を立てながらレンジに入れた。



(ムカつく、ムカつく、なんだあの態度!!!!)


「あれ?獄寺、今からそれ食べんの?さっき朝ごはん食べてなかった?」


味噌汁の鍋を火にかけたところで、山本がいま気付いたみたいな口ぶりで言った。


「今日の晩飯作んのはテメーの番だろっ」
「・・・・あ・・・今日、夜大学の野球部で飲み会があって帰るの遅くなるからご飯作れねーや・・・わりぃ。すっかり言うの忘れてた」


山本のその言葉に鍋の取っ手をもつ自分の手がピクピクと脈立つ。


「山本おまえ・・・・昨日の夜はなんであんな遅かったんだよ」
「え?・・・・・昨日は居酒屋のバイト行ってて・・・・」
「は??居酒屋???んなの初めて聞いたぞっ。コンビニのバイトはどうしたんだよ?!」


すると山本は少し面倒くさそうな表情を浮かべて頭をポリポリと掻きながら答えた。


「あ〜・・・コンビニのバイトは自給とか時間とかが結局合わなくて止めたんだ。あれ?言ってなかったっけ??」


なんだそれ、なんだそれ、なんだそれ!!!???初耳に決まってんだろーが!!!


大学行き始めてすぐに受けたバイト面接がコンビニって言ってたからずっとそうだと思っていたのに・・・・・居酒屋だって?だからいつも帰ってくるのが遅かったのか。





・・・・・・知らなかった。




鍋の取っ手を持つ手の震えと波打っていた脈が次第に弱くなっていく。なんだか異様に頭の中が冷静な自分に驚きつつも、ふつふつと静かに込み上げてくる感情に少し眩暈を覚えた。



(俺・・・・・なにも知らない。最近の山本が分からない・・・・・)




レンジがチン!と鳴る音も、加熱してボコボコ沸騰している味噌汁にも気付かないまま俺はしばらくその場に突っ立っていた。
 

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