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□ひみつ(連載中)
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(※獄寺視点)





「獄寺くん・・・・俺・・・」




そう言って、あまりにも十代目が酷く傷ついた顔をするもんだから俺はいてもたってもいられなくて気がつくと十代目を抱きしめていた。



「・・・ごく・・でらくんっ?!」


驚いた表情を浮かべる十代目。十代目のお身体は思っていたとおり小さくて華奢で、俺の腕の中に見事にすっぽり収まった。


(・・・・・・山本とは大違いだな)



ヘラヘラとだらしなく笑う山本の顔が脳裏をよぎる。でも今は正直、目の前にいるこのお方の事の方が俺にとっては何より重大だった。


「・・・・痛いよ、獄寺くん。どうしたの・・・?」
「俺は十代目の悲しむ顔なんて見たくありません・・・俺まで悲しくなってきます。あいつのことなんて・・・・笹川のことなんてもういいじゃないっすか!女なら他にもいっぱいいますって!」
「・・・・・・獄寺くん」


そう言って強く抱きしめると、十代目はそれに応えるように黙ったまま俺の背中に手をまわして顔を埋めた。


(十代目・・・・・)






思い切って笹川京子に告白しようとするも、なんだかあの女には違う野郎の影があるらしく、最近の十代目はずっとそのことで気を病んでいた。そういう色恋沙汰は正直苦手分野だが、十代目のお悩みとあらば話は別だった。十代目が不安とすることは全て取り除いてさしあげたい・・・・それも右腕の役目だ。

そう思って十代目の話を聞いてるうちに、気がつくと・・・・今のこの状況。


はっきり言って、こういう時どうすればいいのか俺にはさっぱり分からない。適当なことを言って余計十代目を悲しませてしまったりしたらどうしよう・・・とそんなことばかりが頭をかけめぐる。



(アイツなら・・・・山本ならこんな時俺になんて言葉をかけるだろうか?なんて言ってくれる?どう触れてくれる?)



十代目を抱きしめながら俺は必死に頭を働かせた。この方の悲しみを取り除いてあげたい。十代目にはいつも笑っていて欲しい。悲しむ顔なんて見たくない。





『獄寺・・・・・・・』




その時、俺の頭の中に蘇る記憶は


『大丈夫。俺がいるよ、獄寺』


そう言って優しく抱きしめて俺にキスをする山本だった。


いつも独りで孤独だったから、人の愛し方なんて分からなかった。どうすれば誰かに愛されるのか。どうすれば人を愛せるのか。愛され方も愛し方も分からない。


だからいつだって俺のやり方は間違っていて、空回っていて。今もどうすれば十代目が笑ってくれるのか見当がつかない。ただ十代目が悲しむ顔は見たくない、それだけは分かる。


何かに迷って焦って逃げ出したくなる時、山本が俺にしてくれることを思い出す。不慣れな手つきで十代目の肩を抱いていると微妙に手が震えた。俺の腕の中で小さな身体を寄せる十代目は、いつもより心なしか頼り無く見える。



「・・・・・ありがとう獄寺くん。もう大丈夫だから・・・」

俺を心配させまいと、こんな時まで気遣って無理に笑顔を作る十代目を見ていると心臓がぎゅうううっと強く締め付けられた。


(何だ・・・・この気持ちは)



山本とはまた違う、山本に向ける感情とは全然違う。それは分かるのにこの感情が一体どこからくるものなのかが言葉で説明できない。



気がつくと俺は十代目にキスをしていた。いつも山本が俺にしてくれているように。
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