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□獄寺んち-獄ver-
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「うわ。きったねー・・・・・」





山本は部屋に入るなりそう呟いた。むかついて、山本のケツあたりを軽く足で蹴ってやった。

「てめーの部屋もそう変わんねーだろ」
「・・・・ま、そう言われりゃそーだな」


山本はハハハッと笑ってそう言うと、どすんとソファーに腰掛けた。鼻歌を歌いながら、持っていたコンビニの袋からジュースやらお菓子を取り出して机の上に広げだす。


「やべ。すっげー今俺ワクワクしてる。獄寺の部屋とか初めて入るしなんか微妙に緊張してきた」

・・・・緊張?ほんとかよ。そんな風には見えねぇけどな。山本の笑顔にはどこか変に余裕があるように見えて、むしろ俺の方が今のこの状況に緊張していた。



山本と付き合いだしてもうすぐ2カ月。一緒に学校行ったり帰ったりは時々するものの、手は繋いだことないし、もちろん・・・・・キスだってまだしたことがない。二人でいる時に交わす会話は付き合う前とそう変わらないし、山本は相変わらず馬鹿でクソつまんねーことばっか話しかけてくる。まぁ仕方ねぇから、どんなくだんない会話でも俺は付き合ってやってるけど。

だけど、2ヶ月間何もないってのはどうなんだろうか?

これって普通なのか?・・・・・分からん。


正直、誰かと付き合うなんて初めてだし何が普通なのかとか基準がよく分からねぇ。


・・・っつーかさ、山本とキスなんて考えただけで背中あたりがゾワゾワするんだけど・・・・いや、それは嫌だとかそういうわけではなくてだな、想像がつかないっつーかなんつーか。



(って俺なにひとりイイワケしてんだ)

昨日いきなり「明日学校終わったら獄寺んち行きたい!」ってメールが山本から送られてきた。一瞬『どうしよう』って焦ったけど断る理由もなかったし、今まで2人で遊ぶ時はいつも山本んちだったから「仕方ねーな」って言いながらしぶしぶ了承してやった。



でも昨日家に帰って、あまりの自分の部屋の汚さに唖然とした。ふだん誰も部屋になんて呼ばねぇから全く気にしてなかったけど、これはあまりにも酷い。散乱していた服やCD、音楽雑誌や本をとりあえず見えない位置に押しやって掃除機をかける。



灰皿にたんまり溜まった煙草の吸殻を捨てて、棚にぎゅうぎゅうに並べた靴を綺麗に並べた。机に散乱しまくったアクセサリーを元に戻す。なんとかこれで山本に見られても平気なくらいは片付いた気がする。

なのに何だよ、山本の奴!お前の部屋の方がよっぽどゴチャゴチャしてて汚いっつの!



俺が悶々としているっていうのに、隣の山本はと言えば嬉しそうな顔でスナック菓子をひたすらバクバク食べている。

「獄寺も食べてみろよ、これすげぇ上手いぜー」なんて言いながらいつものヘラヘラした表情でキョロキョロと首を動かす。

「あれ?獄寺の部屋ってテレビ置いてねぇの?」
「テレビなんて見ねぇから置いてねーよ」
「じゃ、いつも部屋で何してんの?」
「あ?ダイナマイトの手入れとか色々モノ作ったり・・・俺はお前と違って忙しいんだよ!」
「え・・・じゃあ、いつも家帰ったらひとりで部屋こもってんの?」
「・・・っな!なんだテメー馬鹿にしてんのか!人を寂しい引きこもりみたいな言い方すんなっ」
「はははっ。わりぃわりぃ。別にそういう意味で言ったんじゃなくてさ、部屋でいつもひとりでいるなんて寂しくね?今日みたいにまた獄寺んち遊びに来たいな、俺」
「・・・・・・・・。」

山本はいつもの無駄に爽やかな笑顔を浮かべて言った。

「べ、別にいちいち断り入れるもんでもねーだろ。好きにすりゃいいじゃん」

自分で言った言葉なのに何故か気恥ずかしくなって、ぷいっと視線を反らした。

何でもないようなツラして自然にそんなこと言われたらどう答えていいか戸惑うから困る。俺だって何でかんでも、つっけんどんで返すわけじゃない。付き合うってことがどういうことかってくらい少しは分かってるつもりだ。何もかもが前と同じじゃ駄目なんだろ?それくらい分かってるよ。

「・・・・・・・お、俺たち・・・一応、つ・・・付き合ってんだしな」
「・・・・獄寺」


やべ。自分で言っててすげぇ恥ずかしくなってきた。


俺は慌てて机の上のジッポを手に取り煙草に火を点けた。俺としたことが・・・・部屋に二人きりだからって、普段は絶対言えないような気持ち悪ぃこと言っちまった。
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