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□バレンタイン(連載中)
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さっきから何回このコーナーの前を通っただろうか。目の前に立ち、凝視すること数分。そして行ったり来たりを繰り返して数十分。


うーん、うーんと悩んで思い切ってその小さい正方形の箱に手をかけてみるけど、『やっぱやめた』と元の位置に戻す。そしてまた同じことを繰り返す。まさに怪しすぎるその俺の行動を、レジ近くにいた店員がジロジロと見てきた。


『てめぇ何ガンつけてんだコラ!!』と目で睨みをきかせると、店員は焦って視線を反らした。


(・・・・・くそ。なんで俺がこんなことで悩まなくちゃいけないんだ。ふざけんじゃねぇっつーの!!)

チッと舌打ちを打ってコンビニを出る。

あああああ。なんか苛々するぜ。無性に苛々する。その理由はただひとつ。今日という日が最も忌まわしく最低な日だからだ。2月14日。バレンタインデー。その名前を口にするのも腹立たしい。


なんでも日本ではバレンタインっつーのは、女が好きな男にチョコレートを渡す風習らしい。・・・・・意味が分からねえ。全く理解不能。なんでチョコレートなんだ。まぁ百歩譲って花とか手紙っつーくらいなら分かる。でも何でチョコ?気持ち悪いんだよ。そんなもの、もし名前も素生も知らない奴から貰ってもただ怖いだけだ。



ああ。嫌だ。去年の今日も女共がギャーギャー騒ぎながら教室に押しかけてきて、『受け取って』だの『食べてみて』だのうるさかった記憶がある。ふだんまともに話もしねぇ女から、何が入ってるかわけ分からない物もらって食べられるわけないだろ。捨てるのも面倒だから全部その場で突き返してやった。


・・・・・俺はな!!!



でもアイツ。山本武という奴は、ヘラヘラ馬鹿みたいに鼻伸ばして何でもかんでも受け取りやがって。あいつはアレか。馬鹿なのか。いや、馬鹿なのは前から知っている。


(思い出すと胸クソ悪い)


ポケットからライターを取り出して煙草に火を点けた。


今年も去年みたいな鬱陶しいところを目の当たりにしなくちゃいけないのかと思うと、学校に行くのが億劫になる。


今でもかなり認めたくないんだが、俺は山本と付き合っている。もうすぐで9カ月・・・・付き合った日をちゃんと覚えてしまっている自分自身に嫌気がさす。でもこれには理由があって、別に山本と付き合えたことが嬉しくてとかそんなんじゃあない。断じてない。

去年の今日・・・・つまり去年のバレンタイデーに山本とありえないくらいの言い合いをして大喧嘩。もちろん殴り合い。何が原因かと聞かれたら、正直自分でも認めたくないことだからあまり思い出したくない。


アイツが・・・・山本が学校の女子共にキャーキャー騒がれながら大量のチョコを受け取って俺に自慢してきたことがキッカケだった。『自慢したつもりはない』と山本は言ってたけど、あれはどう見てもわざとだろ。



その何日か前に山本から好きだと告白を受けて、俺はすごく戸惑っていてかなり悩んでいた時だった。今まで山本のことをそんな風に見たことなかったし(当たり前だけど)、むしろいつも十代目にまとわりついて鬱陶しい奴だと思っていた。でも何故だか悶々としていて、答えなんて最初から決まっていたはずなのに、なかなか自分の中で踏ん切りがつかなかった。


だけど、山本が嬉しそうに自慢しながら俺にチョコレートを見せてきて「あれ?獄寺ひとつも貰ってないの?一緒に食べる?」なんて平然と言いやがるもんだから、『なんだコイツ??!』と無性にムカついて大喧嘩したことが、まぁ、付き合うことになったキッカケだ。認めたくないけど。



そして今年のバレンタイデーが来た。悪夢がよみがえる。女子たちに囲まれてヘラヘラする山本の顔を今年もまた見るのかと思うと、苛々が止まらん。


『悪夢』だなんて大袈裟。なんで俺が山本ごときにこんな気持ちにならなくちゃいけないんだ。




煙草の灰を地面に落として足ですりつぶし、考えを遮るように頭を振った。

去年と違うのは、俺と山本が付き合っているということ・・・・・・すなわち恋人同士。(口にするのも嫌だけどな)

バレンタインデーに恋人にチョコレートを贈るのが日本では主流らしい。そう思って、柄にもない行動を取りそうになったけれど、そもそも俺たちは男同士。おかしくね?っつーか気持ち悪ぃだろ?2月14日にコンビニのバレンタインコーナーの前でウロウロとする男子中学生がいたら、俺が店員でも怪しい目で見るな。間違いない。



うん。そーだな。気持ち悪い上に間違ってる。やっぱ山本にチョコなんて渡すべきじゃない。それに、どうせ俺が渡さなくたって女子共に嫌ってほどプレゼントされるだろう。

そしてまた去年のムカつく場面を想像する。腹立つ。



ガンッ!!!!


ムシャクシャして、俺は近くにあったゴミ箱を思い切り蹴り倒した。
 

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