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□stay away from me
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いつものことなんだけど、獄寺はいつだって俺のことを見てくれない。昨日あったテレビの話しや、どーでもいいくだらない世間話、真剣な話を持ちかけた時でさえ全然耳を傾けてくれない。

『お前のことなんか全然興味ねーよ』って言いたいみたいに目も合わせてくれないんだ。

どう思う?酷くね?


俺はそれが悔しくて、わざと獄寺の顔を覗き込んだり目をじっと見て話したりする。そのたびに『なにすんだ!』って真っ赤な顔をして怒鳴られるけど。それでも俺は獄寺と話しするのがすげぇ楽しくて好き。

どんなに冷たくされたって、一緒に居たいと思っちまうんだから仕方ない。先に惚れた方が負けっていうけどほんとその通りだと思う。

俺は獄寺に弱い。どんなに酷い言葉を浴びせられたって、獄寺が俺に笑いかけてくれるだけで、それだけで全部許しちまう。まぁいーやって思ってしまうんだから、本当恋は盲目だ。



なぁ獄寺、ちょっとくらい俺を見てよ。

他の奴と話しなんかしないで。俺だけ見て。


「おい山本、ちゃんと聞いてんのか。お前のために俺がわざわざ放課後残って勉強教えてやってんだぞ。最初で最後なんだからな!・・・・・って人の話を聞けよバカっ」

そう言って獄寺は手に持っていた教科書で俺の頭をポン!と小突いた。


・・・・・だって仕方ねーだろ。教科書とノートを交互に見ながら、熱心に解説してくれる獄寺の顔があまりにも可愛いかったから見とれてたんだよ。なんて言ったらまた怒られそうだからやめとこう。

「てめーは自分の立場分かってんのか?赤点ばっか取って、これ以上十代目に迷惑かけたら承知しねーからな。馬鹿みたいに野球ばっかしてるから頭わりぃんだよ。てめーもマフィアを目指す者なら勉強くらい・・・あ、俺はまだお前のことをボンゴレの一員として認めてねぇけどな」

その後もだあーだこーだ、あーだこーだと獄寺はいつものように説教じみた親父みたいな口調で俺に話した。

「うんうん。うんうん、そーなのな」

俺は適当に相槌を打ちながら、『やっぱ獄寺は可愛いな』なんて見当違いなことを考えていた。


怒ってる時も、笑ってる時も真剣な時も、ツナにそっけなくされてショックを受けてる時も。どの顔も全部、全部大好き。


だからさ、少しくらい俺のこと見てくれたっていいだろ獄寺?

せっかく一緒にいるんだから、もっと俺だけ見て欲しいのな。


「なぁ、獄寺」


こっち見てよ獄寺。俺は獄寺のメガネに手をかけた。


「な、何するっ・・・」


メガネを外して、俺は獄寺の唇に口づける。ちゅっと音を立てて何度かキスをすると、獄寺はすぐに顔中真っ赤にして俺に教科書を投げつけた。

「いきなり何すんだ、てめぇっ」



「何ってキスだけど」


俺は平然とした口調でそう言ってやった。だって獄寺がいつまでたってもこっちを見てくれないから少し意地悪したくなったんだ。


だってさ、怒った時はちゃんと俺の方向いてくれるだろ?


いつもどーでもいいって顔して、俺のことなんてそっちのけでさ。酷いんだから獄寺は。だからこれくらいいいだろ?キスくらいたまにさせてよ。


「バカっ!もし誰かに見られたらどーすんだよっ」
「いいじゃん。付き合ってんだから」
「いいわけねーだろ!!どうイイワケすんだよっ!」
「ははっ」
「全然笑えねぇんだよ野球馬鹿!!」
「獄寺、怒ってばっか。カルシウム足りてねんじゃね?」
「・・・・・・・・・」


俺に言い返すのが面倒くさくなったのか、獄寺は「はぁ」と深くため息をつくと頭を抱えた。


そんな顔も可愛い。もっと怒ったり笑ったりして欲しい。でもそれは俺の前だけにしてて。ツナにも他の奴にも女子にも見せないような、俺にだけ見せるようなそんな顔を独り占めしたい。もっと俺だけを見て欲しくて、もっと獄寺と近くにいたくて俺はずっと獄寺に話しかけるんだ。

なぁお前も同じ気持ちじゃないの?教えて獄寺。もっと分かって欲しいんだ俺のことも。


俺だって傷つかないわけじゃない。だけど、正直打たれ強くなってるのかもしれない。それは相手が獄寺だからだぜ?


大好きだよ、獄寺。



「なぁ、もう勉強やめて帰らない?」
「てめぇはっ・・・・・・はぁ。もーいい。お前相手に本気になってる自分が空しくなってきた。やめた、やめた」


そう言って獄寺は教科書を片づけだした。


その手を取って俺は獄寺を抱きしめる。夕陽が差し込む誰もいない教室で、今は俺と獄寺だけ。

この時間がずっと続けばいい。獄寺が俺だけを見てるこの時間がずっと続いて欲しい。

「獄寺」
「・・・・・んな顔すんなよ・・・野球ばか」


そして獄寺はそっと俺の肩に頭を置いた。そして顔を上げる。

(可愛い。すげぇ・・・・ほんと可愛い)

上目づかいの獄寺の顔を見ると、思わず口から言葉が出そうになった。『かわいい』なんて言ったらきっとまた獄寺に怒られる。分かってんだ。


だから俺はそっと獄寺の耳元でささやく。

「大好き獄寺、ほんと大好き。好き、好きだよ」


何度言っても言い足りない。いつだって何回だって言うよ。


だから獄寺、俺をもっと見て。








end

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