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□ライン(完結)
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「き、気安く触んじゃねぇ!!」




バシッと物凄い勢いで腕を払いどけられて、ついでに思い切り尻を足蹴りされた。


「・・・・ってぇ・・・!何すんだよ獄寺、ひでぇよ」
「うるせぇ!てめぇが慣れ慣れしく触ってきやがるからだっ。俺の半径3メートル以内に近付くんじゃねぇ。分かったか!この野球馬鹿っ」


顔を真っ赤にして、まるで小汚いものでも見るような蔑んだ目で俺を睨みつける。


なんだよ。幾ら俺のことが嫌いだからって、ちょっと肩組んだくらいでそんな言い草はねぇだろ。毎度毎度言われたら俺だって傷つく。そんな素振りは見せていなくたって、慣れてるわけじゃねぇんだぜ?


「あのなぁ、こう見えて俺のハートは繊」
「あっ!十代目ぇ!!!!」


ツナの姿を目にした瞬間、俺の言葉を無視して獄寺は走り去った。

「・・・・・・・・・・・。」



・・・・・・・無視ですか。

思い切り尻を蹴りあげられてその場に放置・・・・・・・俺、涙目。


獄寺が俺に冷たいのなんて今に始まったことじゃないけど、ここ最近は出会った初めの頃より素っ気ない気がする。

(俺獄寺になんかしたっけ?)

そうやって頭を捻るふりをしたって、どうせ俺は馬鹿だし獄寺の考えてることなんてちっとも分からないよ。などと少し拗ねてみる。ツナに向ける満面の笑みは、男の俺から見ても可愛く見えるんだから少し腹が立つ。まぁそんなことは口が裂けても言わないけど。


とにかく、俺に対する態度をもう少しあらためて欲しいものだ。例え俺のことが嫌いで苦手なタイプでも、話しかけるたびにあんな風にあからさまに拒絶されたらちょっと用があって話しかけるのでさえ躊躇ってしまう。それが本音。

今までこんな風に誰かに嫌がられたり、自分の存在を遠ざけられたりした経験がないから対処法が分からなくて困る。そんなに親しくない人とだって少し話せばすぐに打ち解けられるし、相手が自分に対して好感を抱いてくれていることにもすぐ気付く。自分で言うのもなんだけど、他人に好かれる自信なら結構あったんだ・・・・獄寺と出会うまでは。








さっきから隣で獄寺がブツブツと独りごとを呟いているのが気になって仕方がない。


「なぁ、さっきから何言ってんの?てかそれ俺に言ってんの?」

いつものことだと初めは気付かないフリをしていたけど、あまりに俺の話を無視し続けるもんだから思わず突っ込んでしまった。すると獄寺はまたいつものように眉間にしわを寄せる。

「あぁ?うっせ。俺に喋りかけんじゃねぇ」
「無理なこと言うなよ。一緒に帰ってんのに黙ってる方が不自然だろ」
「勘違いしてんじゃねぇよ。俺はな、十代目に頼まれたからてめぇと行動を共にしてるだけであって別に仲良しごっこがしたいわけじゃねぇんだよ」


動物が人間に対して威嚇するみたいに険しい顔つきで俺を睨みつける。まるで敵を見つけた時の猫みたい。当たり前だけど、獄寺の頭に耳なんて生えていないし逆立つ毛並みも牙もない・・・・・おかしいな。



それにしても『頼まれたから』ってそんな大袈裟なことじゃないだろ。用事で一緒に帰れなくなったツナが「先に2人で帰って」って言っただけのことなのに、まるで大仕事でもまかされたように言うのな。

「まぁまぁ。んなカッカしないで仲良くしよーぜ。なっ?」
「だから、俺に気安く触んじゃねぇっつってんだろ!!!」

ポンポンと軽く獄寺の肩を叩いた瞬間に、物凄い勢いで手を払いどけられて思わず体がよろめいた。いつもより激しく振りほどかれた手がじんじんと熱を持つ。眉間にしわを寄せて、突き刺すんじゃないかってくらいの鋭く尖った目で俺を睨みつける。いつにも増して不機嫌なオーラがその視線だけで伝わってくる。

「・・・・ははっ。どうしたんだよ獄寺。今日なんかおかしくね?何そんな怒ってんの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ごくでら??」


いきなり黙りこくって視線を反らす獄寺の顔を覗き込むと、すかさずまた睨みつけられた。

「・・・・・・山本。お前勘違いしてるみたいだから、この際だからハッキリ言っておくけどなぁ。俺はてめぇのことをまだ認めちゃいねぇんだよっ!十代目やリボーンさんにちょっと気に入られてるからって調子に乗ってんじゃねぇ。これ以上気安く俺に喋りかけんなっ。正直うぜぇんだよ。分かったか!!」

ドスの利いた声で怒鳴るように言い放つと、地面に唾を吐いて顔を背ける獄寺。言いたいことを言いきってスッキリしてるはずの獄寺の顔が何故か寂しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか。固く握りしめた拳が微かに震えている。


(・・・・・ごくでら・・・・・)

獄寺に悪態をつかれるのには慣れていて、それでもショックを受ける時はあって。やっぱりどうしたって俺が獄寺に好かれることなんてないんだって悲しくなったりするけど、それでも今までなんだかんだで一緒に居るから初めの頃よりは獄寺のこと理解してるつもりでいるんだ。だから、今獄寺が本当はどんな顔をしているのかくらい分かる。


「・・・・・・・そういうことだから・・・・もう必要以上に俺に構うな・・・・」


そう小さく呟いて背を向けて歩き出す獄寺の腕を反射的に掴むと、一瞬獄寺の身体がビクリと震えたように感じた。


「待てよ、獄寺」
「やめろっ、離せっ・・・てめぇ耳ついてんのかよっ!今言ったこと聞いてなかったのか!?」
「なんでそんな嫌がんだよ。俺たち友達だろ?!仲間じゃねぇのかよ?」


獄寺のことは嫌いじゃない。冷たくされたって嫌われてたって俺は好きなんだ。おもしれぇ奴だって思ってるし、ずっと仲良くしたいと思ってる。口は悪いしすぐキレるけど、ツナのこととなると必死になってすげぇ友達想いだし、熱いもん持ってるし頭いいから尊敬してるところだっていっぱいあるんだ。だから獄寺にだって同じように思って欲しい。獄寺の言う右腕とかマフィアごっことか難しいことはよく分かんねーけど、純粋に友達として仲間として俺のことを認めて欲しいって思うのはおかしいことなんかじゃないだろ?


「俺は獄寺のこと大事な友達だって思ってるよ」
「・・・・・・・・・・」
「だからそんなこと言うなよ。悲しくなんじゃねぇか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・獄寺?」


腕を掴まれたまま微動だにせず俯いたまま俺の方を見ようともしない獄寺。いつもとどこか様子が違う。

「どうしたんだよ。どっか調子悪いのか?顔色悪いぜ?」
「・・・・・・・・・・・・るせぇ」
「え?」
「うるせぇっつってんだよ!!!!!」

ドンッッッッッッッ!!


怒鳴り声が耳に響いた瞬間、思い切り腹のあたりを足蹴りされて俺は思わずその場に倒れ込んだ。


「・・・いっ・・・・・・・てぇ・・・・・・」

獄寺の蹴りが右腹の深いところに思い切りヒットしてあまりの激痛に声すら出ない。

「・・・・・・・・・・っ・・・・・」
(普通蹴るか?いきなり蹴るか??!)


「と、友達とか、俺はっ・・・、そんなこと・・・思ったことねぇっ・・・・」


右腹の痛みに気を取られて、まるでスロモーションがかかったように歪んで耳に響く獄寺の声。


「・・・・・お前のそういうのとは・・・ちがう・・・・・」


上手く聞き取れなくて途切れ途切れに言葉が宙を舞う。


「・・・・えっ?なんて?なんて言った?」
「・・・・・・・・・」
「ごめん、聞こえなかったんだよ。もう一回言って」
「・・・・もういい。そういうことだから、もう俺に喋りかけんな」


静かにそう言って歩き出す獄寺を追いかけて、また腕を掴む。


「なにそれ?意味分からねーって!」

また蹴られるんじゃないかと咄嗟に身構えた状態で獄寺の腕を引っ張ると、振り返って俺に向かい合うような体制で、逆に掴んでいた手を掴み返された。


「・・・!??」

いつも反らすイメージしかない怪訝な瞳が、瞬きもせずにじっと俺の目を見ていた。そしてゆっくりとその口が開く。


「てめぇのことが好きなんだよ」


「・・・・・・・へ?」

予想だにしない獄寺のその一言になんともまぬけな声が喉から出た。一瞬で腹の痛みがどこかに飛んで頭が真っ白になる。


「だからてめぇとは仲間になんかなれねぇ。分かったか?!そういうことだからもうこれ以上俺に近付くんじゃねぇ」


掴んでいた手を勢いよくバシッと離すと、ポケットに手を突っ込んで獄寺はスタスタと歩きだした。



「・・・・・・・・・・・」



何それ!?どんなイイワケだよ?!どんな捨て台詞だよ!??



ぽかんと開いたまま口が塞がらない。



今獄寺なんて言った?今、あいつ俺に何て言った?



あの獄寺が俺のことを『好き』って言った・・・・。



好きって。好きって言った・・・・・。




何が何なんだかわけが分からなくて、俺はその場に立ち尽くすしかなかった。
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