緒方杏平

〜ゆらゆらと…秋は〜
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この話は

〜ひらひらと…春は〜
〜ふわりふわりと…夏は〜
に続くお話です
まずはそちらからお読み下さいね

では秋のお話の始まりです







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キーキーと微かな音がする



私は授業準備の手を止めて
音のする方をそっと見た


私の視線のその先には
少年のと青年の狭間で揺らぐ
緒方君の端正な横顔が見える



夕方の誰もいない図書室で
直射日光を避けるために
締められたブラインドから洩れる
縞模様の橙色の光


その光がいつも青白い彼の顔を
柔らかく照らし出す




背の低い本棚の上に飾られた
地球儀をゆっくりと回しながら
その指先で表面をなぞっていく



あぁ……さっきの
キー キー って音は
地球儀を回した音なんだ




人気のない放課後の図書室で
動くのはただ
緒方君がまわす地球儀

聞こえるのはただ
キーキーと地球儀がきしむ音




私は無音よりも静かな
その一幅の絵のような空間を壊したくなくて
そっと息を止めた






どの位そうして見つめていた事だろう……

視線に気づいた緒方君は
すぅうっと目を細め

「終わりましたか?」
とただ訊ねた


「え……もしかして待っててくれたの?」


「秋の日はつるべ落としと言いますから 送ろ……
いいえ…と言うわけではありませんが…」


ふいと横を向く頬が少し赤いよなんて
からかったら
きっと夕日が当たっているせいだと貴方は言うのでしょうね


何だか緒方君が可愛くて
自然に笑みが零れてしまいそうだけど
我慢して
ただそっと近付いた



「地球儀面白い?」

「ええまあ……
以前は見ている事しか出来ませんから
苦手だったのですが……」

珍しく歯切れの悪い台詞に
思わず首を捻ると


「貴女のおかげですよ」
と緒方君は微笑んだ








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