企画部屋

□赤いアネモネを贈ってくれた彼の赤い顔
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 「クロコダイル!」

 アラバスタの砂漠にて散歩中の彼の名前を呼んだのは年若い海賊だった。

 その声に振り向く砂漠の英雄の口端には大人の余裕さえ感じられる僅かな笑み。

 それが現在時点で自分だけに向けられているものだと思うとエースの口元は自然と緩んだ。

 「……エースか。何してんだよこんなところで」

 「あんたに言いたいことがあってさ」

 名前を呼ばれることさえ嬉しく感じる。

 ああもう末期だなぁなんてことを思いながらエースはにかりと笑ってそう言う。

 しかしそこから先の言葉が中々出て来ない。

 ここまで来る最中の海の上で幾度も台詞を反芻して覚えてきた筈なのに、たった一言が出てこない。

 あー、だとかうー、だとか曖昧な音ばかりを発するエースに元来短気な性格であるクロコダイルは溜め息を吐き出して言う。

 「……何なんだ一体。言いたいことがあるんならとっとと言いやがれ」

 クロコダイルの発言にエースはクロコダイルの目を見据えて苦笑する。

 「簡単に言ってくれるよなぁ。人が一世一代の告白をしようって時に」

 「あ?告は……く……?」

 そう言って怪訝そうに眉根を寄せるクロコダイルにエースは真剣そのものの表情を作って一つ頷き、口を開く。

 「おれ、あんたが好きだ」

 クロコダイルは目を僅か見開いて自分の耳を疑う。

 今、こいつはなんと言った?

 好き?誰が?え、おれが?

 軽くパニックに陥るクロコダイルにエースはずっと後ろ手に持っていた一輪の赤い花を見せる。

 一面砂色の世界に色鮮やかな赤がぽつりと咲くのはどこか美しく、生命のみずみずしさは蜃気楼のようにも思えてしまった。

 「これ……あんたに対しての、おれの気持ち」

 そう言ってはにかんだエースの顔は、赤く染まっていて。

 比例するようにクロコダイルの頬も赤く染まる。

 「てめぇ、何言ってるか分かって」

 「分かってるよ」

 エースは苦笑いを浮かべたまま、言葉を続ける。

 「あんたは男で、おれも男で、あんたは七武海で、おれは白ひげ海賊団二番隊隊長で。全部理解した上で言ってるんだ」

 そう言って、赤い花をクロコダイルの右手に握らせる。

 「分かってるけど……好きなもんは、仕方ないだろ?」

 そう囁いてクロコダイルの手の甲にキスを落とした。

 「今すぐに返事してくれなんて言わないから、さ。また、来るから」

 だから返事はその時に、と笑ってエースは踵を返して駆け出した。

 「っ、おい!」

 思わず呼び止めるも、白ひげの入れ墨が入った背中は遠くなって、やがて砂漠の風景の中に埋没してしまった。

 クロコダイルは先程起きた一連の自体が現のことだと理解できないまま、レインディナーズにある自分のアジトに戻った。

 「お帰りなさい、サー……あら?」

 迎え出たパートナー、ニコ・ロビンが少し驚いたような顔をしてクロコダイルの手の中の花を見る。

 「赤いアネモネ……愛の告白でもされてきたのかしら?」

 「……なんでそうなる」

 ずばりを言い当てられたクロコダイルは僅かに焦りながらもその感情をひた隠しながらそう尋ねた。

 「花言葉よ、サー」

 クロコダイルの胸中を知ってか知らずかロビンはくすりと笑って言う。

 「アネモネの花言葉、それは『あなたを愛します』なの」

 その言葉とエースの言葉がクロコダイルの脳内で結び付き、クロコダイルの頬を赤く染める。

 ロビンはあらあらと笑いながら口を開く。

 「花瓶を?」

 「……ああ、とっとと持ってこい」

 ぶっきらぼうな言葉に照れ隠しを感じとったロビンは「はい」と答えながらまたくすりと笑った。



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