頂き物

□勝ち負けシンメトリー
1ページ/2ページ









「青崎、」

「おや…じッ…」


組長に呼び出されて来てみれば、何時ものごとくソファーの上に押し倒されて、革張りの値の張るソファーは俺の質量にぎちぎちと情けなく悲鳴を上げた。組長は押し倒した俺に重なるように覆い被さり、首筋の冷や汗を舐め下す。その姿は老齢にも関わらずつがいを求める獣その物で、俺は久々に組長に恐怖を覚えた、故に、か扉が開く音にも気付かなかったのだろう。この人のことだ、事前にタイミング良くなるように呼んだのだろう。幹彌さんを
ドアを開けた主は誰でもない幹彌さんだった。


「ずいぶんと楽しそうなことしてるじゃねえか。青崎」

「みっ…きや、さッ…」

「遅かったじゃねえか、幹彌」

「…会長、野暮用ってなんですかい。」


"俺だって忙しいんだ。"
眉間に皺を寄せ、スラックスのポケットに手を入れ、気だるそうに答える幹彌さんの機嫌は良くなさそうだ、それか、組長のことが嫌いかどっちかだ。どちらにしても今の二人の間には居たくない
俺は火照った身体をどうにか起こし、膝の上の組長を退かせた。
そして罰の悪そうな顔を浮かべ小さくなりながら腰を深く深く落とした。
続く沈黙を痛いほどに肌に感じながらも俺は組長と幹彌さんを交互に見つめた。


「わざわざ俺を呼び出してまで、何してんですか」

「まあまあ、お前は頭が堅くていけねえな。」

「っ……」

「今から俺とお前で…、ちょっとしたげーむをしようじゃねぇか」

「っ…はい?」


ぎちり、ぎちぎち、空虚な空間に響く何かを絞める音。荒縄か太めの電源コードで人体の皮膚を引き締める、痛々しい音。その音の正体は、誰でもない幹彌さんが発した音で、幹彌さんの手の甲からは赤い、深い赤が溢れていた。己を戒めねば、この、腹立たしい男には耐えられないのだろう。痛みで怒りや憤怒を和らげ、顔だけで笑って見せる幹彌さんが、己を嫌いなことぐらい組長だって知っているはずだ。なのに、この人は幹彌さんの気をさかなでることしか言わない。


「青崎は、尻軽じゃねえんだ。ひょいひょい男に股は広げねえ。なのにな、お前こいつとヤったそうじゃねえか。」

「…ええ、まあ」

「はっ、一発かましたくらいで我が物顔か、幹彌。お前も偉くなったな…」

「っ……」


ぶつり、単発的な深い音は俺の鼓膜を揺さぶると虚無に霧散した。幹彌さんの手の甲は血塗れに染まり、だが顔には怖いぐらいの笑顔が張り付けられていた。幹彌さんはその溢れる赤を床に叩きつけながら、何処からか薄手のハンカチを取り出し素早く止血して見せると、また笑顔を見せた
悪寒が走る、恐れ、先刻の組長とは違う怖さが、危なさが滲み出ていた


「いいですよ、やりましょうや。糞親父」

「はっ、言うじゃねえか糞餓鬼。」


ルールは簡単…―――








End


――――
→叫び
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ