企画部屋

□さて、愚かなのは君か僕か
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 「では私はこれにて」

 そう"営業用"の笑顔に上乗せするように妖艶さを漂わせれば下準備は完了。

 「ま、待ち給え藤田君」

 そう焦って自分を呼び止める男に斎藤は何も思わない。

 ただ垂らした釣竿の先の餌に魚が食いついたな、くらいの感覚で感慨など無いに等しかった。

 「酒でもどうかね」

 「……しかし」

 「遠慮は要らないよ」

 そう言って手首を捕まれる。

 汚らわしいとは思ったがその手を振りほどくことはしなかった。

 「……では、お言葉に甘えさせて頂きましょうか」

 ただ、何の感情も無くそうにこりと微笑んだ。





 斎藤は邏卒服の釦を外しながら密偵用長屋の前に立つ。

 「寝てろよ、頼むから」

 思わずそう口にしていた自分に気付き、斎藤は苦笑を漏らした。

 一応井戸で水を浴びてきたとは言えあの妙に鋭い男に隠し通せる筈がない。

 斎藤はなるべく静かに戸を開く。が。

 「お帰りなさいー」

 間髪入れずに返ってきた明るい声に斎藤は頭を抱えたくなった。

 「……寝てろって言っただろ」

 「待ってますって言いましたよ、僕は」

 にこりとそう言い返されると斎藤は溜め息を吐き出す。

 そのまま沖田に背を向けて戸締まりをしていると背中に熱が張り付き、斎藤は体をびくりと震わせた。

 沖田はすん、と斎藤の項の辺りの匂いを嗅ぐと首筋に軽く舌を這わせる。

 「んっ……おき」

 「嫌な匂い……西洋の香ですか」

 そのままゆるゆると舐め上げて耳を軽く歯む沖田に斎藤はびくりと体を震わせる。

 「嫌、なら、やめればい、い……だろっ……!」

 何とか声を抑えながらそう毒づく斎藤の真っ赤に色づいた耳に一つ口づけて沖田は囁きかけた。

 「何言ってるんですか、僕が嫌なのはこの匂いですよ。はじめさんのいい匂いを台なしにする安っぽい匂い」

 そう言って斎藤の細い腰を抱く。

 「全部、僕の匂いに塗り替えてあげますからね」

 くすりと笑んで沖田は囁き、斎藤は諦めたような息を吐き出した。





 「じゃ、とりあえずお掃除しちゃいましょうか」

 斎藤を布団に押し倒した途端そう言った沖田は今斎藤の秘孔に舌を入れて嫌らしい水音を響かせていた。

 「ふ……ぅん……!」

 斎藤は何度も横に首を振りながら喘ぎを漏らしている。

 「ふぁ……や、そ…じ……やめぇ……きたな、からっ……!」

 「どうせその汚いの、飲まされたんでしょ?」

 漸く満足したのか沖田はぺろりと唇を舐めてそう言う。

 じわりと涙が浮かんでいる斎藤に沖田は苦笑した。

 「分かってると思いますけど……僕はあなたを責めてるわけじゃないですからね」

 そう言って斎藤の額に口づける。

 「あなたがあんな獣以下の連中に組み敷かれてるのに勝手に怒ってるだけですから」

 必要なことだとは言え、と言って沖田は鎖骨の辺りに付けられた赤い跡の上から吸い付く。

 気高い魂が宿る体に残る行為の残骸を全て塗り変えてやりたかった。

 「あなたのすることを否定する気はありませんけど……ちょっとくらい心配したって罰は当たらないですよね?」

 にこりと笑う沖田に斎藤は悩ましげに息を吐き出す。

 「勝手に、しろ」

 「はぁい」

 「……本番は無しだぞ」

 腰が痛ぇ、と言って沖田の首に腕を巻き付ける斎藤に沖田は口づける。

 「心得ました、僕のおひい様」

 「……誰がだ」

 ぎゅう、と首をしめてやると沖田はからからと笑った。



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