戦国BASARA
□狂い咲き
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夜の闇に鉄の臭いが充満する。
雲が月星を覆い隠す無明の闇の中、白銀だけが鈍く光る。
冷たい夜気には似合わぬ熱い血潮がどくどくと小十郎の身体から流れ出ていた。
じりじりと熱を持つ傷口を湿った舌が這う。
ぴりっと電気に似た刺激が走り小十郎は肩を震わせた。
「感じているのかね、竜の右目」
くつりと喉奥で笑って松永は言う。
「死ねっ……!」
小十郎は憎々しげにそう吐き出した。
冷たい空気が染み込んでいるはずの土も既に小十郎の熱が移って温かい。
出血のせいか身体が上手く動かない小十郎は強く歯軋りをした。
小十郎の肌に自ら付けた傷を押すと痛みから小十郎の眉根が寄る。
そのままずぶりと指を突き立てた。
「ぅ……ぐっ……!!」
苦悶の響きを孕む僅かな呻きに松永の唇は愉悦に歪む。
指を引き抜くと黒い手袋に血が染み込んでいるのがよく分かる。
そのまま血で塗れた指を、小十郎に見せ付けるようにして舌で舐めた。
「っ、悪趣味な野郎だぜ」
荒い息を吐き出しながら、虚勢を張るように小十郎は言う。
「何を言う、竜の右目よ」
喉奥で笑うと小十郎を抑えつける力を強めながら、首筋に鈍く光る刃を軽く当てる。
静かに流れ滴る血を同じく赤い血で舐めとり、囁いた。
「卿の血は何よりも甘いさ」
耳元から流れ込む低音に小十郎の肌が粟立つ。
畜生、と一つ零して小十郎は重い瞼を下ろした。
→後書き