戦国BASARA

□運命とは呼ばない(3)
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 「てめぇ、ここでなにしてやがる」

 「何って……恋人の家に居てはいけないのかね」

 ソファに深々と腰かけて堂々とそうのたまう松永に、小十郎は隠すことなく溜め息を吐きだした。

 「誰が恋人だ」

 「私が、だろう」

 微かに唇を釣り上げて笑う松永は小十郎の通う高校の教師であり、今週の初めに小十郎の隣人となった。

 そして、小十郎の弱みを握って交際を迫り、渋々それを承認させた。

 そんな変化があった週末の土曜日。

 週休二日の高校生ではあれど、剣道部の練習が存在する身には土曜日など関係無く。

 部活帰りの疲労が溜まった身に降り注ぐ、一気に嫌いになった人物との邂逅。

 しかも、疲れを癒すことができるはずの自宅で。

 「鍵、かかってたよな?」

 朝の行動を振り返っても鍵はかけたはずだ。

 「卿は鍵もかけずに登校するような危機感の無い男なのかね?」

 「まさか」

 男子の身であれど、一人暮らしの身でそんな図太い真似はしない。

 「俺が言いたいのは、鍵かかってた家になんでてめぇが居るんだ、ってことだ」

 「さぁ、聞きたいのならお答えするが?」

 そう笑う松永に、ぞくりと背筋が震える。

 こんな男は、知らない。

 たった十八年の生涯であれど小十郎の出会った中に、こんな男は居ない。

 「いや、聞きたくねぇな」

 藪蛇は突かぬに限る。

 「で、何用だ。茶なんて出さねぇぞ」

 いつの間にか敬語もすっかり抜けているが、この五日間の中でそう接触があったわけではない。

 朝、登校時の小十郎を待ち伏せるように挨拶と称してやたら話しかけてきたり、学校でやけに出会うようになったこと以外にはそう変化もない。

 「夕食はどうするつもりだね?」

 松永は唐突に尋ねた。

 「は?自炊くらいしてるぜ」

 小十郎は恐らく同年代の女子と比べても料理の上手い方だと思う。

 よって、一人暮らしをするにあたっての最初の壁である「自炊」という点は全く問題になっていない。

 「卿の料理が食べてみたい」

 「………はぁ?」

 「一人分も二人分も大して変わるまい」

 「てめぇ、貧乏学生の懐舐めてんじゃねぇぞ」

 今は親の遺産で生活している身であり、何故嫌いな男に、無理矢理交際を迫られた男に、手料理をふるまってやらないといけないのか。

 「断る」

 小十郎は鋭い目で松永を睨んだ。

 だが、松永はその睨みにも当然怯えることなく、仕方ないとでも言いたげに溜め息を吐きだした。

 ソファを軋ませて立ち上がると、小十郎の方に歩み寄った。

 小十郎は思わず後ずさる。

 松永は歩みを止めず、必然的に小十郎はさらに後ずさることになった。

 とん、と小十郎の背が白塗の壁にぶつかった。

 松永は、小十郎の顔のすぐそばに手を付き、小十郎に覆い被さる。

 もう片方の手で小十郎の顔をするりと撫でると、唇に笑みを乗せた。

 「ならば、卿を食させていただこうか」

 「何考えてやがっ……んっ!」

 毒づいて吐きだした小十郎の言葉は松永の唇によって塞がれた。

 驚いている間に松永の舌がするりと小十郎の口内に侵入し、小十郎の舌を絡め取った。

 小十郎は思わず松永の胸に両手を付いてその身体を押しのけようとするも、びくともしない。

 松永の巧みな舌遣いに手の力が抜けてくる。

 執拗な口づけに、小十郎の呼吸が遮られ、押しのけようとしていた手でその胸をどんどんと叩く。

 ようやく解放されると、小十郎の身体は無意識に酸素を求め、思わず咳き込んだ。

 その間に松永は小十郎自身のベルトを外すと、小十郎の両手を頭上で拘束した。

 「てめっ、何のつもりだ……!!」

 「何、卿を喰らうだけさ」

 そうにやりと笑うと、再び口づける。

 だが、小十郎も一方的にやられるだけでは無く、侵入してきた舌に反撃を試みた。

 松永が口を離すと、やけに楽しそうに笑う。

 「やってくれる」

 小十郎が松永の舌先に噛みついたのだ。

 「舐めてんじゃ、ねぇぞ」

 小十郎は荒い息の中そう吐きだすと、松永を睨みつける。

 松永は目を細めると、小十郎の首筋に顔を埋める。

 生温かい舌が首筋を這う感触に、小十郎の背筋に電気が走る。

 「塩辛いな」

 ちろりと赤い舌を出して松永はそう言う。

 「るせぇ……!」

 「クラブ活動後の汗の味か、青春だな」

 そう言いながら学ランの中に着ている茶色のTシャツを捲り上げる。

 晒された引き締まった身体に松永は怪しい手つきで手を這わせた。

 びくりと小十郎の身体が震える。

 「ふむ、中々敏感なものだな」

 腹部に這わせた手をゆるゆると上昇させていき、胸の突起に触れる。

 きゅ、と摘まむと小十郎の肩が跳ねる。

 「女じゃ、ねぇんだぞ」

 「知っている。身体を見て間違うほど私は愚かではない」

 そう呟くように返すと、ぐり、と強く押しつぶすように突起に触る。

 「あ……」

 思わず零れた掠れた声に、小十郎は混乱する。

 男の身で、何故こんな真似をされて感じている。


 松永はくすりと笑むと、小十郎の股に膝を押し当てる。

 「若さとはいいものだな、もう勃っているのか」

 兆して布地を押し上げる欲望に圧迫感を感じ、小十郎の頬に朱が上る。

 「ふざ、けんな……!!」

 「何、恥ずべきことではあるまい。欲望に忠実に生きるべきだ」

 若いのだから、と低く呟く。

 ズボンと下着を取り去ると、勃起した小十郎自身を手のひらで包み込む。

 そして手を上下に激しく動かして擦ると、耳元で囁く。

 「さあ、解放したまえ」

 「うぁ……!!」

 耐えきれない程の快楽に、小十郎は白い欲を吐きだした。

 荒く息を繰り返し、呆然としている小十郎の腕を胸元まで下ろし、くるりと壁の方を向かせた。

 「な、にを……」

 「分からぬのならそれでいい。私に全て委ねたまえ」

 束縛したままの両手で壁に手をつかせて、腰を片手で支えると先ほど手のひらで受け止めた小十郎の吐き出した精液を指に絡め、つぷりと後孔に指を一本埋めた。

 ぐ、と思わず呻いた小十郎の内壁を擦るようにして中を広げる。

 じっくりと中を探るように指を動かすと、小十郎の苦痛の声が僅かに甘みを帯び始める。

 「は、ぅ……」

 「成る程、卿には中々素質があるようだ」

 くつりと笑うと、松永は二本目の指を埋める。

 「やめっ……」

 「やめろ、というような反応では無いと思うが」

 そう言うと共に、指先で前立腺を刺激する。

 「ん……」

 その刺激にびくりと大仰に肩を震わせ、唇を噛んで声を押し殺す。

 松永は喉の奥で笑うと、容赦なく三本目も侵入させる。

 そのままこりこりと筋を刺激すると小十郎の掠れた声が甘く漏れる。

 「いい声だ、もっと啼きたまえ」

 そう囁くと松永は指をずるりと引き抜くと、自身もズボンと下着を取り去ると、膨れ上がった欲を入り口に宛がった。

 「てめ、待ち」

 「待たんよ」

 どこか喜色を帯びた声と共に松永は雄を小十郎に捩じ込んだ。

 ひゅっと喉を鳴らして首を反らせる小十郎に松永は更に腰を進め、雄を収めきると一つ息をついた。

 「締め付けてくれるな、捩じ切るつもりか?」

 くつくつと笑いを漏らし、腰を微かに揺らす。

 「んっ、動く、な……!」

 「無理を言う。このような名器を前に退くのは男ではないだろう?」

 その言葉を皮切りに松永は激しく腰を打ち付ける。

 「んっ、あ、あぐっ」

 苦痛と快楽とがあいまったような、悲鳴に近い嬌声が小十郎の唇から洩れ続ける。

 何故男に無理矢理犯されて感じているのか。

 そもそも何故こんなことになっているのか。

 初めて体験する快楽にも思考をぐちゃぐちゃに掻き乱されて、何も考えられない。

 小十郎の混乱が涙として溢れ出る。

 次から次へと零れ出る涙と嬌声に、松永は更に激しく腰を打ち付ける。

 「あ、ああっ、やめっ……!!」

 「やめろ、とはまた筋違いの発言だな」

 達したいのだろう?と松永は耳の傍で囁く。

 「吐きだしたまえ……欲望のままに、な」

 自身も吐きだしたい欲に支配されながら、松永はそう言葉を紡ぐ。

 それと前後して小十郎は再び欲を吐きだした。

 きゅうと収縮する小十郎の中に、松永も精を吐きだした。

 体内に広がる熱に、小十郎は気を遣った。

 ぐったりとする身体を支えて、松永は小十郎をソファに横たえる。

 手を戒めるベルトを外せば、赤い痕が手首に残っていた。

 そこに唇を寄せ、松永は呟く。

 「まずは、第一段階」

 そう言葉を紡いだ口元は、満足気に微笑んでいた。




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