捧げ物

□affluent love
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 クロコダイルとスモーカーはお互いに愛煙家である。
 
 恋人同士で喫煙家と厭煙家だったりすると小競り合いが絶えないものだが、この二人にはそんな心配は無縁であった。

 そして、喫煙家でしかできないいちゃつき方だって無い訳では無かった。

 ある日、スモーカーは短くなった葉巻を灰皿に押し付け、新しいものを口に銜えた。

 同じく葉巻を銜えているクロコダイルはそれを横目に眺めていた。

 ごそごそと上着のポケットを漁っている彼も、中々葉巻が似合う。

 能力そのものが煙であるし、そもそも名前が喫煙の申し子であった。

 「クロコダイル」

 低い声で名を紡がれ、見ていたことに気付かれたかと少しぎくりとしたが、クロコダイルは無表情を貼り付けて答えた。

 「んだよ」

 「火ぃ忘れてきた」

 先程まで吸っていた葉巻の火は来る前に点けたらしく、スモーカーはそう言う。

 「……で?」

 クロコダイルがそう短く問うとスモーカーは呆れた様に言う。

 「で、ってお前………。

  火ぃ貸してくれって言う以外に何があるんだよ」

 クロコダイルは「成る程な」と頷いた。

 そしてポケットを探り、目当てのマッチを取り出すも、しけっているのか火が出ない。

 ちっと舌打ちして、スモーカーに言った。

 「しけってるから諦めろ」

 するとスモーカーは涼しい顔をして言う。

 「そこに火ぃあるじゃねぇか」

 視線の先は、クロコダイルの口元。

 クロコダイルが銜えている葉巻だった。

 「……は?」

 今ひとつぴんときていないクロコダイルにスモーカーは苦笑すると、立ち上がりクロコダイルの座っているデスクに手を着く。

 葉巻を銜え、クロコダイルの銜えている葉巻の先に付着させる。

 クロコダイルは硬直していた。

 近い場所にスモーカーの顔がある。

 キスする時は絶対に目を閉じているから、とても新鮮で、同時に気恥ずかしかった。

 自分の顔をまじまじと見つめるクロコダイルに、スモーカーは怪訝そうに微かに眉根を寄せる。

 「吸ってくれねぇと火が移らねぇんだが」


 「んぁ……ああ」

 クロコダイルは頷いて葉巻を吸う。

 何も意識していないスモーカーに、自分が変に意識しているのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 先端が赤く燃え、火がスモーカーの葉巻に燃え移る。

 スモーカーはそれを確認すると、一息吸って頭上に白い煙を吐き出した。

 そして葉巻を指に挟んで持つと、クロコダイルの額に唇を落とした。

 クロコダイルは思わず口に銜えた葉巻を落としそうになって、素早く唇を引き締めた。

 「ありがとよ」

 微かに唇の端を上げるスモーカーの笑顔にクロコダイルは思わず視線を外した。

 「拗ねんなよ」

 「拗ねてなんざいねぇよ」

 若干笑いを含んだスモーカーの声にクロコダイルはすぐさま反論する。

 「じゃぁなんだってんだ?」

 スモーカーがそう尋ねるとクロコダイルは一瞬躊躇してからスモーカーの首に鈎爪を掛けた。

 そのままスモーカーの顔をぐいと引き寄せ、耳のすぐそばで囁いた。

 「おれ以外にあんなことするんじゃねぇよ、煙野郎……!」

 スモーカーは一瞬きょとんとして、離れていったクロコダイルの顔を見る。

 その頬は熱を持って微かに赤く染まっていた。

 スモーカーは思わず優しい笑みを零した。

 男だとか、海賊だとか、七武海だとか、そんなことは関係無い。

 「……本当可愛いなお前」

 目の前の男への愛しさが溢れ出る。

 「誰がだ馬鹿野郎!」

 クロコダイルの照れ隠しの怒声がスモーカーの耳朶を打とうが、スモーカーの幸せそうな笑みは消えることが無かった。





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